酔っぱライタードットコム - 酔いどれエッセイ/ジャックダニエル

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酒にはそれぞれ思い出があり、ストーリーがある。とはいっても、酔っぱライター的には、小説になるような美しいお話ばかりではない。酔っぱらって怪我をしたり、記憶をなくしたり、死にかけたり。かと思うと、飲む相手を間違えてからまれたり、たかられたり。そんな抱腹絶倒・悲喜こもごものショートエッセイ集。

ジャックダニエル


 Hさんは友達の友達で、そんなに親しい人じゃないのだが、急に電話がかかってきて、会うことになった。
「じつは今、失業中なんだ」と、彼はいきなり切り出した。三〇すぎで妻子がいて失業とは、ヘビーな事態だ。なんでも、ある朝出勤したら、会社がなかったそうな。う〜ん、こういう時って、かえって親しい人には言えなかったりするんだよな。
 可哀想なので、うな重をおごってあげたのだが、人恋しいのか家に帰りづらいのか、「飲みに行こう」と言う。ゆっくり話ができるようにと、静かなバーに入った。Hさんは「僕、バーボンが好きなんだ」と言って、ジャックダニエルのロックをがぶがぶ飲み始めた。しかも、さっき食べたばかりなのに、ピザやチーズやサラダをバンバン頼んでは、わしわし食べている。まさに絵に描いたような「やけ酒」と「やけ食い」。そして「いかに仕事探しが大変か」というたった一つのテーマを、据わった目でグルグルと話し続けている。気の毒な状況なのはわかるが、ここも私が払うんだろうか。よく考えたら、この人とはぜんぜん親しくないしなあ。
 だが、ハードリカーをガンガン飲んでいると、ある時点でガクっと深い酔いが来ることがある。Hさんが突然、「眠い。もう帰る」と言ったときは、心の底からホッとした。彼とはあれから音信不通だが、たとえ仕事が見つかっても、醜態をさらした私に連絡を取るのは、そうとう勇気がいるだろう。いやはや、どこまでも不憫な人だ。でも、バーで三万円もおごらされた私はもっと不憫である。







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