家庭料理 青柳
東京都港区新橋2-20-15
汐留新橋駅ビル1号館地下1階
新橋の地下通路を通り、古い駅ビルに入ると、ゴチャゴチャと飲み屋が軒を連ねている。その一角にあるカウンター7席の小さな店が「青柳」だ。
70代とおぼしきママ一人で切り盛りするこの店、じつはもう30年近く続いていて、開店以来の常連客も多い。この日も、ひとりでカウンターの角に陣取って泡盛を飲んでいたのは、数十年来の常連さんだった。
店内には日本舞踊を踊るママの写真が飾ってある。「踊りは子供の頃からやっていて、師範にまでなったんですよ。でも、踊りを続けていくのはたいへんだからと、ひとりでできるこの店を始めたんです」
開店当初はバブルの時期に重なり、それはもう大盛況で、カウンターはいつでも満席。お客さんが途切れることはなかったという。「あの頃は良かったよね。景気も良くてさ」と懐かしむカウンターのオヤジに、目を細めて相づちを打つママ。踊りで鍛えられたせいか、背筋がシャンとしていて、立ち居振る舞いもどこか上品だ。
日本酒は長野の「七笑」。これを冷や(常温)でいただく。甘すぎず辛すぎず、絶妙の味わいだ。つまみはすべてママの手作り。カウンターの上に乗っているお総菜を、適当に見繕って出してくれる。レンコンと里芋の煮物や、ワカメの酢の物など。なんてことはないつまみだが、これがなんともいえずほっとする味なのだ。
カウンターの脇にはメニュー表もあるのだが、ママ一人でこんなに何種類も作れるのだろうか?とふと不安になる。
「この中でおすすめはなんですか?」と聞くと「そうね。肉豆腐かしら」「じゃ、それお願いします」「え〜と、これから作りますから、15分くらいかかりますよ」えっ?出来上がっているのを温めるだけじゃないのか。しかし、おすすめとあらば食べないわけにはいかない。
「肉豆腐の前に、比較的すぐできるものはなんですか?」「ニラ玉もおいしいですよ」というので、まずはニラ玉をいただく。薄く焼いた卵に緑のニラが散らしてあって、見た目にも美しい。お好みで醤油をかけてもいいが、味付けがしっかりしているのでこのままで充分イケる。腹にたまらず味もちょうどよく、さすがよくできた酒の肴である。
そうこうするうちに肉豆腐が出てきた。小さな土鍋の蓋を取ると、なんとなくすき焼き風を想像していたのだが、予想に反して醤油の濃い色ではない。味はダシがきいた関西風。肉は牛ではなく豚バラで、タマネギと豆腐が入っている。しかもあの短時間でしっかり味が染みている。ううむ、こりゃ絶品だ!
「3年おきくらいに、お客さんとパーティーをやっているの。この写真は開店25周年のもの。今年の6月で27周年。まあ、30年まではやろうかなと思っています」
と、楽しそうに語るママ。気取らずほっとできて、旨いつまみがあるとなれば、酒好きは放っておかない。お袋の味を求めて、今日も青柳のカウンターに通ってしまうオヤジたちなのであった。0