酔っぱライタードットコム - 造り手訪問/さつま無双

タイトル.psd

焼酎ブーム以来、東京でもよく見かけるようになった焼酎「もぐら」と「さそり」。その印象的な和紙のラベルと、個性的な味わいを覚えている方も多いだろう。しかし、これを造っているのが「さつま無双」であることは、あまり知られていない。

「さつま無双」は、会社の成り立ちからして少し変わっている。創業は1966年。当時は薩摩酒造の「白波」が多少県外に出ていただけで、鹿児島の焼酎の県外出荷はゼロだった。そこで、「鹿児島の焼酎を県外に広める」という目的のもと、鹿児島県酒造組合傘下の34社が集まってできた会社が「さつま無双」なのである。

だから、基本的に「さつま無双」には工場がなく、貯酒タンクと瓶詰めラインがあるだけだった。各社から集めてきた原酒を濾過してブレンドし、商品を作るのである。だがその濾過技術とブレンド力には自信があった。今もっとも鹿児島で飲まれている「島美人」も、異なる工場の焼酎をブレンドして造られているが、それでも品質が一定だということで、高い評価を得ている。これとよく似ているかもしれない。

1.psd2.psd3.psd4.psd

やがて「さつま無双」は、当初の目的通り、北海道から沖縄まで、全国制覇を果たした。しかし、規制緩和で各社が直接県外に出て行くようになると、寄り合い所帯である「さつま無双」の経営はしだいにおろそかになっていく。気がつけば、年々業績低迷。「鹿児島焼酎を全国に広める」という目的はとっくに果たされたし、もう会社をたたんでしまおうか、という状況で社長に就任したのが、現在の岩元則之社長であった。2004年のことである。 

岩元社長の3つの戦略

岩元社長は、これまで数々の赤字会社を建て直してきた実績を持っている。彼がやったことは3つ。まず、問屋依存が高かったのを、50%まで落とした。そして、利益の薄いディスカウントのPB商品をやめ、付加価値の高い商品造りを行い、直売の比率を35%に伸ばした。そして、幹線道路沿いという地の利の良さを生かし、敷地内に手造り工場と売店を建設して、その売店の売上比率を15%にまでもっていったのである。

「もぐら」と「さそり」は、良い原酒だけをよりすぐってブレンドし、小売店にテイスティングしてもらって作り上げた高付加価値商品だ。問屋を通さず、全国のこだわり店110店舗でしか売っていない。これが、焼酎ブームの後押しもあり、爆発的に売れたのである。焼酎ブームが去った今も、出荷数は落ちていないという。なぜなら、直販のため、小売店にとってはうまみのある商材だから、積極的に売ってくれるというのだ。いわば、商品そのものが営業マンのようなものなので、営業マンがいらないのである。

こうして生み出された利益を基に、3年前に手造り工場と売店を作った。工場は、素人が見学しても楽しめる、古式製法のかめつぼ仕込みである。しかしこの工場があなどれない。ここで造った「かめつぼ仕込み」という商品が、県の鑑評会で、ここ数十年にない高い評価を受け、総裁賞を代表受賞してしまったのだ。味見をすると、口当たり良く、スーッと溶けるような後味の軽さ。驚きの旨さだ。

売店には、「さつま無双」ブランドの商品のみならず、各株主さんの会社の商品も120銘柄以上取りそろえた。県内の主だった商品がすべてそろっているので、「品揃えが良い」と評判になり、居酒屋の店主も足を運ぶほどだという。もちろん、県内外の観光客にも大好評だ。

本格的なかめつぼ蔵

では実際に手作り工場「無双蔵」の中を案内していただこう。ここでは年間1300〜1500石を3人で造っている。8月の数日をのぞき、年中無休なので、いつでも見学可能だ。一次仕込みも二次仕込みもかめつぼ仕込みなので、全部で46個のかめつぼが並んでいる。かめは土の中に埋まっているので温度が一定であり、かめの形状も対流が起こりやすいので、温度と品質管理がしやすいという利点がある。

5.psd6.psd7.psd8.psd

麹は蒸しから種付けまでを全自動ドラムで行い、そのあと麹室に引き込んで完成させる。蒸留は木桶蒸留。直接沸かすのではなく、蒸気を送って沸騰させる方式なので、味がまろやかになるという。

ハナタレが出てくるまでは、蒸気を全開にして40分くらいかか る。杜氏さんは「ステンレスの蒸留器だと、とても飲めないけれど、木 桶だとハナタレが旨いんですよ」と言う。蔵の片隅には、1100 リットル入りのかめがあり、原酒が貯蔵されていた。これは「天無双」 という商品になるという。

この後、併設の試飲販売所へ移動し、「さつま無双」のお酒を試飲させていただいた。スタンダードの「さつま無双」は、スッキリ飲みやすくさわやか。この黒麹版もあり、こちらはガツンとくる骨太の味わいだ。どちらも安定した旨さがあり、さすがのブレンド力だと感じた。一方、かめつぼ仕込み、かめ貯蔵の「天無双」は、やわらかくて飲みやすく、これまた絶品である。

モンドセレクションで金賞をとった「せぴあ」は、芋と樽貯蔵の麦のブレンドだ。口当たりは甘く、のどごしはスッキリの良酒である。ベニサツマの焼き芋を使った「極の炎」は、甘みの中に少し香ばしさがあり、焼き芋らしさがある。木桶蒸留かめつぼ仕込みの「薩摩七十七万石」は辛口でドライでスッキリ! 

「桜門」は吟醸酒のようなやさしい味わいだ。37度の原酒「帥(そつ)」はアルコールっぽさを感じさせないまろやかさで激ウマ! 1日限定20本の「一縷」は、44度の木桶蒸留のハナタレで、蒸留するごとに少しずつ取って、かめで6ヶ月寝かせているとか。時間も手間もかけたこの酒は、冷凍庫に保存されていて、とろりとした滴をいただく。これがもう上品な甘さとコクのある味わいでとてつもなく旨かった。

9.psd10.psd11.psd12.psd

最後に、「さつま無双」のブレンドの技をさぐるべく、ブレンダーの松元太さんに話を聞いた。「さつま無双」には70代、40代、30代の3人のブレンダーがいる。松元さんはその中の中堅どころ、40代のブレンダーである。毎日運ばれて来る原酒を、空腹時と満腹時を避けて、10時と3時にテイスティングしているという。

テイスティングだけではなく、入ってきた原酒の分析も怠らない。phやアルデヒド、ガス成分などのデータをとって蓄積することも、ブレンダーの大切な仕事だ。しかし、最終的には人間の感覚だと松元さんは言う。

どの原酒をどの酒に使うかはだいたい決まっているのだが、同じようにやっているつもりでも、味が変わってしまうことがある。それは、季節によるものだったり、濾過の具合だったりする。とくにレギュラー酒は毎日飲むものなで、調整が難しく、一番クレームが来るのもレギュラー酒だという。

「さつま無双のレギュラーが飲みやすいのは、県外向けに造られたブランドだからです。鹿児島の人はヘビーな酒を好むので、「天無双」とか「薩摩七十七万石」など個性のある商品は県内向けのブレンドにして、県内限定で販売しています。でも、焼酎は生き物なので、いつでも100%同じものを造れる保証はありません。それを、98~99%にもっていくのがブレンド力だと思っています」

長年培った、高いブレンド技術によるレギュラー酒に加え、かめつぼ仕込みなどのこだわり商品も充実している「さつま無双」。焼酎ブームが去っても、その地位は盤石である。

外観.jpg
さつま無双株式会社
創業昭和41年 年間製造量1万3000石
鹿児島県鹿児島市七ツ島1-1-17
TEL099-261-8555
http://www.satsumamusou.co.jp




1仕込み室
2ドラムから麹を出す
3麹室
4木桶蒸留器
5二次仕込み
6瓶詰めライン
7かめ貯蔵
8樫樽貯蔵
9試飲販売所 年中無休 9時〜17時 TEL0120-606069
10「さつま無双」のお酒
11ブレンダーの松元さんとともに
12岩元社長とともに

▲ ページトップへ

オヤジ飲みツアー

飲み比べシリーズ

世界の酒を飲みつくせ!

酔いどれエッセイ