取材前日、忠孝酒造の徳田安史さんと大城温さんに連れられて行ったのは、新都心にある「泡盛楽園」というお店だった。青パパイヤの炒め物「パパヤーチャンプルー」、豆腐を紅麹と泡盛で発酵させた「豆腐よう」、ピーナツのお豆腐でごま豆腐のような味わいの「ジーマミ豆腐」などをつまみに、「豊吉」の25度を飲む。減圧蒸留だが、香ばしさと甘さがしっかり残っていて、沖縄料理との相性は抜群だ。
マンゴー酵母を使った44度の「忠孝 原酒」は、バニラ香がして味わい深い。この酒は、古酒の甘い香り成分であるバニリンを多く含み、熟成の楽しみもあるらしい。泡盛は長年泡盛酵母しか使われなかったが、忠孝酒造は研究熱心で、新しい酵母にもチャレンジしているのだ。
カメに入った43度の「忠孝5年古酒」もいただいた。ガツンとくるアタックがありつつ、後味はまろやかだ。そして忠孝酒造は、泡盛を入れるカメも自社で製造している唯一の蔵元なのである。
カメの開発者は先代の社長で現会長の大城繁氏。大城会長が初めて美濃焼の窯元へ行き、とっくりとお椀を作ったところ、まったくの素人ながら、簡単にできたのだという。これは自分にもできると自信を深め、平成元年に陶器の研究に着手。3ヶ月で五升壺ができるようになり、半年後には窯を注文。平成3年には、「沖展」に入選するほどの腕前になったというからすごい。
平成4年には本格的に陶器工場を作り、現在は6人のスタッフが泡盛を入れる陶器を作っている。素朴な色合いと温かな手触りが魅力の荒焼きは、古くから泡盛の貯蔵に最適とされてきた。カメに含まれる金属成分が溶け出して触媒作用をし、遠赤外線効果で泡盛の熟成を促進させるからだ。忠孝酒造はその独自のカメを「忠孝南蛮荒焼甕」と称し、高級泡盛を入れて販売しているのである。
ひとつひとつの工程を大切に
翌日は、製造部研究開発課課長の熱田和史さんが、工場を案内してくれた。熱田さんは、シー汁浸漬法の研究で醸造学の博士号をとった研究者でもある。シー汁浸漬法とは、原料のタイ米を前回の浸漬液を加えた水に15~24時間漬けておく方法で、昭和30年代頃まで、泡盛造りで行われていた製法である。浸漬液の中の多様な微生物の働きで、香りとコクの成分が多く生成されるという。
泡盛の原料は、タイ米の破砕米だ。泡盛造りはインディカ米に合っているので、古くからタイ米が使われている。ちなみに泡盛の場合、米はタイから直接沖縄の港に陸上げされるので、事故米が入り込む余地はないという。
米は浸漬タンクに入れた後、縦型の蒸し器で蒸し、放冷機を通す。その後、円盤状の製麹機で丁寧に麹を造る。一度にできる麹は6トンだ。ここまでまったく日本酒の造りと同じ。蒸しから麹造りまでできる回転ドラムを使わないのはなぜだろう?
「昭和40年代から全自動の回転ドラムが台頭し、古い操作が忘れられていきました。当社も30~40年代には回転ドラムを使っていましたが、ひとつひとつの工程がおろそかになるのでやめました」と熱田さん。
仕込みタンクは2トンずつ、3本に分けて仕込む。タンク1本で一升瓶1500本ほどできる。通常の発酵温度は28度くらいだが、忠孝酒造では23度の低温で発酵させ、16〜18日でもろみができあがる。
蒸留器は横型が1台と縦型が1台。横型のほうがコクのある味になり、縦型のほうが軽めの味になるそうだ。どちらもステンレス製。ウイスキーに使うような銅製は、泡盛には合わないとのことである。
泡盛メーカーは、同じ原酒を造り、その貯蔵や濾過やブレンドによっていろいろな商品に仕上げることが多いのだが、忠孝酒造はもろみの状態から違うという。原酒の造り分けによる多彩な商品は、それぞれ個性的で飲みごたえ充分だ。
もっとも地元で愛飲されている「夢航海」は、濾過を強めにしているのでソフトな感じ。甘みがあって旨い。「忠孝」の30度は、フルボディでどっしり。古酒をブレンドした「仁風」は、ボディがありつつまろやかだ。
シー汁浸漬法で造られた「翠古」は、思いのほかきれいな酒でスッキリとしている。30度の「熟成古酒忠孝」は、コクと旨みがありまろやかで旨い! 43度古酒の「迎恩」は、飲み応えたっぷり。「三年古酒」はコクがありまろやか。泡盛鑑評会で県知事賞を受賞した「21年古酒」はカメ熟成させたもの。これはアルコール臭がほとんど感じられないほど甘く、その旨さに脱帽であった。
土作りからこだわった陶器
泡盛工場を見た後、道を挟んで向かいの陶器工場を見に行った。ちょうど社長の弟である常務の大城幸男さんが、人間一人入れそうな大きなカメを制作中だった。これは、現在計画中のカメ仕込み用のカメだという。
それにしても、こんな大きなカメを易々と作ってしまう大城常務の才能には驚きだ。陶器部のスタッフには、大城常務を含め、芸術系の学校を出た人は一人もいない。みんなゼロからスタートして、2〜3年かけて一人前になるのだという。
工場の庭には、土が山になって積んであった。忠孝酒造のカメは、この地元の土から作られる。この土をふるいにかけ、水にさらしてプレスして熟成させ、陶器の原料にしている。収縮率が大きく、焼き締まりが良い土なので、泡盛を入れる器に最適なのだそうだ。この土作りも陶器部スタッフの仕事である。
窯は4基。焼き上がるまで4日間かかる。途中で薪を入れることによって模様ができるのだが、これを窯変といって、ひとつとして同じものはない。もちろん、ひとつひとつすべて手作りなので、形も微妙に違いがあり、味がある。泡盛の容器というより、こうなるともう芸術作品だ。
陶器工場に隣接して、体育館のような貯蔵庫があった。お酒の貯蔵庫としては、沖縄一大きな木造の建物で、中には泡盛を入れたカメが並んでいる。ここで大城勤社長と合流し、お話を伺った。
大城社長によると、西洋が樽文化、日本が桶文化だとすると、沖縄はカメ文化だという。「泡盛は育てる酒。個々のお客さんが10年、20年とカメに入れた泡盛を育てています。カメ熟成はある時期を超えるとガラリと変わります。本当に良いカメだと、もとの酒よりずっと良くなる。反対に、悪いカメだとカメ臭がついたりする。カメが漏れたり割れたりするのは論外です。それではお客様の夢を壊してしまう。私たちは、20年後に素晴らしい古酒になることを願ってカメ作りを手がけているのです」
昭和61年に今の工場を全部設計したが、「機械を作ってもつまらない」と思った大城社長は、研究開発と陶器作りに力を入れている。そこから生まれたのがシー汁やマンゴー酵母の泡盛であり、忠孝南蛮荒焼甕であり、木造貯蔵庫なのだ。
「酔うための酒を売るのではなく、文化を育て、夢を売るのが商売」と言う大城社長。泡盛の本格的な研究は始まったばかりだし、泡盛の古酒造りもここ30年ほどのこと。泡盛文化を育てるのはこれからである。
忠孝酒造株式会社
創業昭和24年 年間製造量5000石
沖縄県豊見城市字名嘉地132
TEL 098-850-1257
http://www.chuko-awamori.com
1泡盛楽園 沖縄県那覇市おもろまち4-17-14 TEL098-867-1511
2パパヤーチャンプルー
3原料倉庫
4縦型甑と放冷機
5円盤形製麹機
6櫂入れ
7仕込み室
8横型蒸留器
9縦型蒸留器
10大城常務
11沖展入選作品
12陶器製作中
13窯
14カメ貯蔵
15忠孝酒造のお酒
16大城社長とともに