沖縄県酒造協同組合は、県内の泡盛製造業者49名全員参加のもと、昭和51年6月に設立された。組合員の生産する泡盛原酒を仕入れ、これを長期貯蔵して古酒に仕上げ、主に県外で販売している。組合で使用する原酒には、酒質審査委員による審査があり、これを通過しないと仕入れてもらえないので、良質の原酒が使われているのが特色だ。
この審査委員の一人が、老舗居酒屋「うりずん」のオーナー土屋實幸さんである。土屋さんは、本土復帰の昭和47年から、泡盛古酒にこだわった居酒屋を開店。しかし、当時は米軍統治の影響もあって、ウイスキー全盛の時代。県外はおろか、沖縄県内でも、泡盛は見向きもされていなかったという。
店を開けたものの、来る日も来る日も客は来ない。それでも土屋さんは踏ん張った。やがて、沖縄ブームの到来とともに泡盛も見直され、今では沖縄県ばかりでなく、全国に泡盛ファンは広がっている。
「土屋さんの店の歴史は、そのまま組合の歴史に通じるところがあります。組合の設立当初も、泡盛はなかなか売れない酒でしたからね」と、組合の儀保利実さんは私を「うりずん」へ案内してくれた。
ここは居酒屋なのに、料理のレベルが高く、接客もしっかりしているので、観光客の間でも評価の高い店だ。この日も地元の客はほとんどおらず、県外から来た客でいっぱいだった。「ほんとは土屋さんの友達が来て、三線をひいたり歌ったりする店なんですがね」と、儀保さんはちょっと残念そうだ。
まずは乾杯! つまみは田芋のコロッケ「ドゥル天」、細切りの昆布を炒めた「クーブイリチー」、なぜかウスターソースをつけて食べる「天ぷら」など。泡盛は組合で造った「海乃邦」が出てきた。25度の10年古酒で、「ロックでどうぞ」と儀保さんに言われるまま飲む。うわ〜、これはまろやか! 常圧蒸留とは思えない飲みやすさである。クイクイ飲んでいたら、すぐに酔っぱらってしまった。あぶない酒だ。しかし、翌日の酔い覚めはスッキリさわやか。まったく残らない酒であった。
いち早く古酒に取り組む
翌朝、組合へ行くと、専務理事の石垣次郎さんが「昨日は何を飲まれましたか?」と言うので、「海乃邦の25度です。かなり飲んだのに、酔い覚めがよく、びっくりです」と答えると、「泡盛は酵母と水と麹だけで、不純物がない。同じ量飲むなら、泡盛が一番翌日に残らないと思いますよ」とのことだった。
「海乃邦25度の欠点は、すぐに1本空けてしまうことですかね。腰を据えて飲むなら、43度をチビチビやるほうがいい。でも、43度だと値段的にもちょっときびしいという方のために、度数を落としてソフトにし、みんなが飲めるような値段で売っています」
では、さっそく利き酒をさせていただこう。「南風」の3年古酒は、甘い香りが印象的。「海乃邦」の10年古酒43度は、香ばしい香りと味わいで、たしかにチビチビやりたい酒である。「海乃邦」の1989年ビンテージは、キャラメルのような甘い香りと味わいで、まろやかすぎてアルコール臭がまったくない。すごい酒だ。
「海乃邦」の10年ものを、瓶で20年寝かせた逸品も味わった。これは……、甘い黒糖のような香りがして、味は上等なラムみたい。う〜ん、こりゃ旨い!「泡盛は瓶の中でも熟成します。100年置いておいても沈殿物は出ず、まろやかになっていく。よく賞味期限を聞かれることがあるのですが、賞味期限はないのです。置けば置くほど付加価値がつくので、『古いものほどかえっておいしくなっていますよ』と答えています」
今ではポピュラーになった古酒だが、泡盛メーカーが商品としての古酒に取り組み始めたのは、組合ができてからだったという。戦前は100年以上寝かせた泡盛があったというが、戦争ですべてなくなってしまった。戦後しばらくしても、メーカーには資金やノウハウが足りなくて、貯蔵する余力がなかったのだ。ただし、沖縄には個人でマイ・クースを造る人が多いので、メーカーになくても、個人で持っている場合があるらしい。戦火を逃れ、50年以上経っている古酒……、飲んでみたいものだ。
濾過とブレンドで決まる酒質
「海乃邦」は泡盛鑑評会で、ほぼ毎年優等賞を受賞している。県知事賞は通算12回の受賞なので、最多受賞蔵だ。この酒質を決めているのが工場長の津覇実正さんである。泡盛は、ブレンドと濾過で味が決まるという。
「組合の酒はよく『甘い』と言われますが、甘みは濾過とひじょうに関係しています。濾過しすぎると甘み成分がなくなるが、濾過をしないと濁ってしまう。泡盛は無色透明でなくてはいけないので、そのあたりには神経を使っています」と津覇さん。
では、ブレンドはどうだろう。「まず組合に来る原酒がひじょうに良いものだということ。毎月一回、10人以上の酒質審査委員によって、44度の原酒と、20度に割り水したものとをブラインドでテイスティングして評価します。ここで合格しないものは組合の原酒にはなれません。ブレンドする前にもう一度利き酒をして、できるだけ多くの原酒でブレンドします。そうすることで、ブレのない一定の品質が保てるのです」
津覇さんは、この仕事をしてもう20年以上になるという。組合の泡盛を一手に引き受けているため、健康管理にはことのほか気をつけている。タバコは吸わないし、酒も無駄に飲まない。辛いものは食べず、食べるときは腹八分目を心がけている。
ずいぶんストイックな生活のようだが、「体調によって味が変わってくるので健康管理は欠かせない」という。さすがだ。以前、サントリーのチーフブレンダーを取材したときも、同じようなことを言っていたっけ。
良い原酒だけをブレンドし、さらにステンレスのタンクで常温貯蔵して古酒にしているのだから、おいしくないわけがない。儀保さんは、22〜3歳で組合に入り、いきなり高品質の泡盛を飲まされたものだから、「泡盛ってこんなに旨かったのか!」と驚いたという。
儀保さんによると、将来は海外への輸出にも力をいれていきたい、と言う。「今は、中国と香港に少し出しているだけ。でも中国は泡盛に近い白酒(パイチュウ)があるぶん期待できる。輸出はまだまだですが、30年前県外の市場を開拓したように、地道にコツコツがんばりたいと思っています。そしていずれは『東洋に名酒・泡盛あり』と言われたいですね」
焼酎ブームの中で県外にも広く認知された泡盛だが、まだ強くてクセがあり飲みにくい酒というイメージがある。それをどこまで払拭できるか。組合の今後の取り組みに期待したい。
沖縄県酒造協同組合
創立昭和51年 年間販売量2000石
沖縄県那覇市港町2−8−9
TEL 098-868-1470
http://www.awamori.or.jp
1うりずん 沖縄県那覇市安里388-5 TEL098-885-2178
2ドゥル天
3坂口謹一郎先生の碑
4貯酒タンク
5樫樽でも貯蔵している
6箱詰めなどの作業場
7組合のお酒
8儀保利実さんとともに