酔っぱライタードットコム - 造り手訪問/萬歳樂・加賀梅酒

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萬歳楽の蔵元・小堀酒造店は、鶴来の町なかに蔵を構える創業300年の老舗である。鶴来は、西金沢から北陸鉄道で30分ほど。古くから白山ひめ神社の門前町として栄え、1000年以上の歴史をもつ町だ。

宿泊した旅館「かのや」にて、小堀酒造店の広域営業部長・小堀浩靖さんと、食事をしながら萬歳楽をいただいた。もっともポピュラーな本醸造酒「萬歳楽 花伝」である。旨味のある辛口の酒で、冷やでも燗でもイケる。

「大吟醸や吟醸酒もいいのですが、あたりまえの酒をどう旨くするかが大事。飲み手にとって一番良いのは、レギュラー酒がおいしいことじゃないですか」と小堀さん。おっしゃるとおり、たしかに「萬歳楽 花伝」のレベルはかなり高い。聞けば、全量酒造好適米で造っているというからたいしたものだ。

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一方、山田錦を使った吟醸酒「萬歳楽 菊のしずく」も飲ませてもらった。香り高く、やわらかくてスッキリした良い酒だ。「でも、花伝と比べると飲み疲れするでしょう」と小堀さん。それはそうだが、こういう入門編的な酒も、あっていいと私は思う。

その後、まだ飲み足りなさそうな小堀さんに連れられ、鶴来の町へ繰り出した。行ったのは、焼き肉屋の「深山(みやま)」。ここで面白い酒に出会った。焼き肉に合う酒として売り出した「萬歳楽 ぎゅう」である。これが、酸が高くサッパリしていて、たしかに焼き肉に合うではないか。旨い!

ごまかしのない酒造りを

翌朝、小堀幸穂社長の車で蔵へ向かった。蔵は町なかにあるはずなのに、車はどんどん町から遠のき、山の中へ。すると、林に囲まれた木造の建物が見えてきた。これが萬歳楽の「森の吟醸蔵・白山」で、吟醸酒を良い環境の中で造ろうと、2001年に建てられたものである。今は、レギュラー酒も含め、9人で2500石を造っている。

蔵は基本的に平屋建てで、エアシューターがないのが特徴だ。麹米も掛け米も、ロボット台車に乗せて丁寧に運んでいる。仕込み室には、エレベーターで運ぶ。これは、米に余計な負荷をかけないためだという。

米は全量産地指定米、仕込み水は山の地下水を加工せずに使っている。やや硬水の、酒造りに適した水だとのこと。

麹はすべて手造り。その証拠に、麹室にあるのは切り返し機だけで、製麹機のようなものは見あたらない。ステンレス張りの麹室には部屋が4つあり、引き込みの部屋、箱麹の部屋、からし場、そして大吟醸専用の部屋に分かれている。大吟醸は麹蓋を使い、丁寧に造られている。

仕込み室には、1.5トンのタンクが19本、750キロの大吟醸用タンクが10本ある。もともと吟醸専用蔵だったので、仕込みが小さいのだ。発酵タンクはすべてサーマルタンクで、コンピュータによる温度管理を行っている。

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杜氏は南部杜氏の佐藤静雄さん。酒造り歴50年、杜氏歴40年の大ベテランだ。まわりに菊姫、天狗舞、手取川など名醸蔵が多いため、萬歳楽の杜氏をつとめることは、たいへんなプレッシャーだという。

酒造りのポイントは、蒸し米をうまくつくることと、徹底してもろみをわかせることだとか。とくに、アルコールがしっかり出きってからもろみを搾るらないと、秋以降にダレたり味が変わってしまうという。

「最後で帳尻合わせをするのはダメ。酵母や仕込み配合を初めからきっちり組み立てて、着地点を思うところに持ってくるのが、本来の酒造りです。蒸しの段階で、すでに商品の味がわかっているくらいでないといけません」と佐藤杜氏は言う。

地酒梅酒のパイオニアとして

その後、蔵から鶴来の町に戻り、本社へ行った。ここは230年前に建てられた蔵で、以前はレギュラー酒を造っていたが、今は梅酒の仕込み蔵になっている。萬歳楽の「萬歳楽 加賀梅酒」は、1200石も造られているもうひとつの主力商品なのだ。

今でこそ、いろいろな酒メーカーが梅酒を造っているが、萬歳楽は20年近く前から梅酒を造っていて、地酒梅酒のパイオニア的存在である。そんな萬歳楽が造る「萬歳楽 加賀梅酒」は、宣伝も営業もしないのに、「おいしい」という評判が評判を呼んで、右肩上がりに売れ続けているという。

とにかく、梅が違う。福井原産の「紅映(べにさし)」という品種だけを使い、福井と金沢から同じ熟度の青梅を調達し、収穫翌日には新鮮なまま仕込んでしまう。

仕込みは梅が採れる6月の上・中旬が勝負。このときばかりは、社長も含めて従業員総出で梅のヘタ取りをする。どの段階でも手を抜かないのが「萬歳楽 加賀梅酒」の身上だ。醸造アルコールも氷砂糖も、最上級のものを使う。そして、仕込んでから丸二年は寝かせてから出荷する。

どんなに旨い梅酒なのか。飲ませてもらうと、ものすごくきれいな酒! スキッとクリアで甘すぎず、家庭の梅酒が裸足で逃げ出す味に仕上がっている。さすがだ。

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そのほかの日本酒も、いろいろと飲ませてもらった。普通酒の「萬歳楽 愛」は、サラッとしていて水のように呑める晩酌用の酒だ。反対に、「剱(つるぎ) 山廃純米」は、コクがあって複雑。骨太で山廃らしさがある。

秀逸だったのは、「北陸12号」という、萬歳楽固有のお米で造った「甚
 純米酒」。これは爽やかな酸が特徴で、キレも良い。お燗にも向き、日本酒上級者が泣いて喜ぶお酒である。

高級酒の「白山」シリーズの中では、「萬歳楽 白山 大吟醸古酒」が素晴らしかった。3年間寝かせた大吟醸で、古酒らしくトロリとした飲み口で、味わい深い。

面白かったのは、晩植栽培の五百万石を使った「穂の香ほんのり」という限定の本醸造酒。晩植というのは、稲を遅く植えること。すると、稲穂が実を結ぶ時期が遅くなり、日中と夜間の温度差が理想的になって、より旨味が凝縮するという。お酒はものすごくやわらかい旨口であった。

ほとんどの米は地元産の契約栽培だが、大吟醸はやはり兵庫県の山田錦を使っている。なかでも特A地区の口吉川の山田錦を使った大吟醸のひとつが、「萬歳楽 口吉川大吟醸」だ。これは華やかでスッキリとした、まことに山田らしい上品なお酒であった。

純米酒や吟醸酒は、それぞれの個性を生かしながら、旨味とキレのギリギリのところを狙っているのかな、という印象。また、レギュラー酒は肩の力を抜いてスイスイ飲める、やや辛めに仕上げた酒であった。

レギュラー酒が7割を占める萬歳楽では、やはり「花伝」と「愛」を中心に、晩酌用の酒ながらレベルの高いものを目指していきたいという。そのうえで、今後は米の味を生かした個性的な純米酒を、県外で提案していく方針だ。今回飲んだ中では、「甚」の出来がとてもよかったので、これからが楽しみである。

また、「加賀梅酒」はもっと販路を拡大し、梅酒人気が高まりを見せるアジアの市場にも打って出ていくつもりとのこと。梅酒と日本酒、2つが相乗効果を発揮して、ますます発展できるかどうか。まさにこれからが勝負である。


外観*.jpg株式会社小堀酒造店
創業享保年間(1716年〜) 年間製造量3700石
石川県白山市鶴来町一丁目474番地
TEL076-273-1171
http://www.manzairaku.co.jp





1民宿・旅館 かのや 石川県白山市八幡町ヲ72 TEL076-272-0645
2深山 石川県白山市鶴来日詰町カ167 TEL076-272-0035
3森の吟醸蔵・白山
4三段式の甑
5酒母室
6酒母の仕込み
7麹米の引き込み
8本社併設の試飲販売所
9萬歳楽の日本酒と梅酒
10小堀幸穂社長とともに

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