酔っぱライタードットコム - 造り手訪問/今帰仁酒造

タイトル.jpg

「今帰仁」と書いて、読める人はそうとうな沖縄通だろう。これは「なきじん」と読み、沖縄本島の北部、東シナ海に突き出た本部半島の北側と小宇利島からなる集落の名前である。

世界遺産に登録されている今帰仁城跡は、大小8つの城郭からなる山城で、難攻不落と言われた城壁が美しく、静寂な山にマッチしている。また、小宇利島には、2005年2月に全長1960メートルの小宇利大橋が開通し、行楽スポットとして注目されている。七色のエメラルドグリーンに輝く小さな島には、アダムとイブ的な神話が伝えられおり、別名フイ島(恋島)とも呼ばれている。

「本当は今帰仁村に泊まってほしかったんですが、たまたま宿がとれなかったのです」と、名護のホテルに迎えに来てくれた大城洋介さんは、残念そうにそう言った。大城さんは、今帰仁酒造の社長の息子さんで、今東京の営業所で働いているのだが、取材に合わせて沖縄に帰ってきてくれたのだ。

車が今帰仁村に近づくにつれ、のどかな景色になってきた。空の色や空気の色がやわらかくなり、なんだか眠たくなってくる。どう見ても、あくせく働く環境ではない。ここで生まれ育った大城さんは、「東京にはまったくなじめませんね。食べ物も、都内の沖縄料理屋さんを探しては食べに行っています」と言う。

黒麹が棲む真っ黒な工場

今帰仁酒造は、昭和23年に「大城酒造所」として創業し、昭和55年に現在の場所に移転した。昔は113坪の借地で小さな工場だったが、移転後は、大型貯蔵タンクがひときわ目立つ、2000坪の大工場になった。外観だけ見ると、機械化された近代工場に見えるのだが、中に入って驚いた。とにかく人が多く、すべて手作業で泡盛造りを行っていたのである。

1.jpg2.jpg3.jpg4.jpg

製造は仕込み担当が6人、ブレンドや貯蔵担当が3人という構成で、年間120万リッターを造っている。工場の中に空調はまったくなく、建物は天井から壁まで黒麹がしみついて、真っ黒になっていた。

その中で、マスクをした男たちが、三角棚の中の麹をスコップで掘り起こしてならしている。もうもうと立ち上る黒麹のホコリ。仕込み室では、開放タンクの中で黒いもろみが、ふつふつと発酵している。それを人の手で櫂入れして、温度調節をする。2週間ほどして、メロンの熟したような香りがしてきたら、蒸留するのだ。

泡盛の原料はタイの破砕米である。ここ今帰仁酒造でも例外ではない。タイ米は、麹菌の食い込みが抜群で、泡盛の特徴であるコクと旨みをたっぷりともたらしてくれるという。もともと泡盛は、ジャワ種の沖縄産米や栗で造られていたのだが、戦後、唐米やシャム米、台湾米、サイゴン米などいろいろ試した結果、タイ米が泡盛造りに一番適していることがわかったのだ。

このタイ米をドラムで炊いて、温度を下げてから黒麹をつける。黒麹には、ヒネ麹、若麹、原種の3つがあるが、今帰仁酒造の泡盛は、もっともスタンダードなタイ米とヒネ麹の組み合わせだ。

ドラムで一晩おくと菌糸を張るので、これを三角棚に移して盛る。三角棚の中では、上と下から温風が出て、麹の温度を34〜36度に保ち、黒麹菌を繁殖させる。朝と夕方、2回手入れをして、ドラムで1日、棚で1日の計2日で麹ができあがる。

三角棚は、昔ながらの木製である。この木材が、余分な湿気を吸ってくれるのだという。週に一度、木枠をはずし、洗浄してバーナーで焼くことで、雑菌を殺している。手間はかかるが、この方法は、工場が大きくなった今もまったく変わっていない。

5.jpg6.jpg7.jpg8.jpg

蒸留器は2基。1日に3回蒸留して、5トンのもろみタンク1本が44〜45度の原酒になる。これを外の大型貯蔵タンクで1年寝かした後、25度に割り水をして、2週間ほどなじませる。その後冷凍濾過をしてさらに2週間寝かせてからブレンドする。

特別な古酒は、さらにかめや樽でも3〜5年熟成させる。樽は新樽のほかに、シェリー樽やブランデーの樽も含めて530個ある。かめや樽の貯蔵庫にも空調はない。それどころか、かめの一部は工場の片隅に、無造作に置かれている。昔から、泡盛のかめは、「人が一番集まるところに置きなさい」といわれるそうで、酒に人の話し声や足音を聞かせた方が、いい古酒ができるのだそうだ。

古酒の熟成がいいと、甘いチョコレートのような香りがするという。今帰仁酒造では、「淡麗」という商品以外、ほぼすべて常圧蒸留なのだが、それは、常圧蒸留のほうが、自分で熟成しようという力があるからだとか。常圧蒸留には、焦げ臭やクセがあるのだが、それこそが熟成を促す成分なのだ。

原酒はすべて同じ


工場見学を終え、事務所で代表的な商品を試飲させてもらった。まず、業界初の20度の泡盛「美しき古里 20度」。甘い香りにマイルドで自然な甘み。20度なのに、全然水っぽくなく、しっかり味がある造りはさすがだ。次は2007年のモンドセレクションで金賞を受賞した「美しき古里古酒 30度」。泡盛らしい黒麹の香りがして、旨みがあり、まろやかだ。

もともとの地元銘柄で、東京ではあまり飲めない「まるだい 30度」。これは香ばしさもあり、ガツンとくる味で、水割りにしてもくずれない。秀逸。3年もの古酒100%の「今帰仁城 43度」は、お菓子のような甘い香りがして、飲み応えあり。一方、唯一の減圧蒸留である「美しき古里 淡麗」は、フルーティーでスッキリしている。

10年ものの樽熟成「千年の響 43度」は、樽由来の香味と、樽に負けない黒麹の香りと味があいまって、絶妙のバランス。7年間かめ貯蔵した「千年の響 43度」は、甘い香りにふくらみのある味わいで、これは文句なく旨い!

9.jpg10.jpg11.jpg12.jpg

これだけの泡盛を、どうやって造り分けているか尋ねると、なんとすべて同じ原酒なのだという。工場では、毎日同じ原料で同じもろみを造り、同じように蒸留している。あとは、貯蔵の年数や方法、濾過、ブレンドなどによって、これだけバラエティーのある商品を造りだしているのだ。

大城さんによると、はじめ今帰仁酒造は「まるだい」だけを造っていたが、「泡盛と言えば度数が高くクセの強いお酒」のイメージがあり、若い世代からは敬遠されがちだった。そこで、アルコール度数30度以上の商品が当たり前の時代に、当時では先駆けとなる20度のマイルド泡盛「美しき古里」を発売したところ、これが大ヒット。泡盛の美味しさをそのままに、低アルコールで飲みやすさを追求したこの商品によって、工場が大きくなるきっかけとなり、やがてお客様の要望が多かった「美しき古里 30度」も出すようになったのだという。

「今は6割が県内、4割が県外ですが、それを5対5くらいの比率にもっていきたい。将来は泡盛を海外にも広めたいですね。沖縄の料理は、炒め物や揚げ物が多いので、泡盛は海外でもきっと好まれると思います」と大城さん。「商品の品質には自信を持っています。オートメーションの大量生産ではなく、これからもこだわりをもって手造りを続けていきます」

工場の規模や売り先は変わっても、今帰仁酒造の泡盛造りは、変わらずにまっすぐなのであった。
外観.jpg
有限会社今帰仁酒造
創業昭和23年
沖縄県今帰仁村仲宗根500
TEL0980-56-2611
http://www.nakijinshuzo.jp/




1仕込み室
2泡盛の黒いもろみ
3麹の切り返し
4木製の三角棚
5蒸留器
6屋外の貯酒タンク
7樫樽貯蔵
8かめ貯蔵
9ドラムから麹を取り出す
10三角棚に麹を引き込む
11今帰仁酒造のお酒
12大城洋介さんと

▲ ページトップへ

オヤジ飲みツアー

飲み比べシリーズ

世界の酒を飲みつくせ!

酔いどれエッセイ