酔っぱライタードットコム - 造り手訪問/のんのこ

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「のんのこ のんのこ ほほよ〜せ〜る〜」という北原ミレイのCMソングを覚えている方も多いだろう。これで「のんのこ」の名は全国区になったため、「いいちこ」のような大手と同じと思われるふしがあるが、さにあらず。むしろ大手とは一線を画した酒造りをしているのである。佐賀県で唯一の麦焼酎「のんのこ」を訪ねて、陶芸の郷・有田に向かった。

「のんのこ」を造る宗政酒造は、まだ創業25年の新しい会社である。社長の実家が広島の造り酒屋であったという縁から、「いいちこ」がブームになった頃に創業して麦焼酎を造り始め、その後清酒も造るようになった。もとは伊万里にあったが、5年前に有田へ移転してきたという。

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この地は水が良いことで知られる。古来より霊場であった黒髪山は、「水源の森百選」に選ばれており、そこから竜門峡に流れる水は、「名水百選」にも選ばれている。この水で、じっくりと旨き酒を醸しているのだ。

また、佐賀県は全国有数の農業大国で、大麦の生産高日本一である。黄金色に輝く初夏の麦秋や、見渡す限りに広がる田園風景は、佐賀ならではの風景だ。そのため、「のんのこ」では創業以来佐賀県産の原料にこだわり、米も麦も、100%佐賀県産である。安い外麦を使うメーカーが多い中、これは画期的なことである。

とくに「のんのこ黒」では、麦の品種を指定しており、ニシノホシ、ニシノチカラ、そしてJA伊万里が最近開発した煌二条(きらめきにじょう)だけを使用している。しかも、デンプンの含有率が高く、タンパク質含有量が少ない焼酎製造に向いた麦を、契約農家に作ってもらっているという。

造りは機械任せにしない


では実際に工場を見せてもらおう。まず初めは、清酒の工場からである。清酒は200石を3人で造っている。小さな甑と放冷機があり、ちょうど麹室に麹の引き込みをしているところだった。麹はすべて手造りだ。仕込み室には5キロリッターの開放タンクが8本並んでいた。大吟醸だけは、木桶で仕込んでいるという。

次は隣の焼酎工場へ。麹は麦麹と米麹のどちらも造っている。ドラム式の製麹機が2台あり、浸漬、蒸し、放冷から種付けまで、全自動で行う。1つのドラムで1600キロの麹が造れるという。

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一次仕込みのタンクは5キロの密閉式が5本。機械任せにせず、人の手で櫂入れを行っている。ここで5日間発酵させ、酵母を増やす。2次原料を蒸すのは、ドラム式の蒸し器である。ここで3200キロの掛け麦を蒸す。2次仕込みタンクは17キロの密閉式が12本。ここで2週間かけ、じっくりともろみを醸す。

蒸留器は6キロ用がひとつ。12000リットルのもろみを午前と午後2回に分けて蒸留する。一回の蒸留は4時間ほどかかる。減圧も常圧もできる蒸留器だが、今のところ減圧しか造っていない。「のんのこ」はスッキリタイプを目指しているので、蒸留器のネックは長め。蒸留温度は40〜50度で、この温度を微妙に変えていろいろな味に造り分けている。また、「のんのこ」と「のんのこ黒」には初留と末だれは使わず、本だれのみ使用している。

タンク1本を蒸留して4500リットルの原酒ができる。原酒はおよそ46度。これをタンクに移して濾過をかける。油、臭い、雑味をとるのは炭素濾過のみで、大手がやっている仕上げのイオン交換は行わない。イオン交換をすると、きれいで香りが華やかになるが、原料由来の深い味わいが出ないという。これも「のんのこ」のこだわりだ。

濾過をした原酒は、屋外の貯酒タンクで3ヶ月から半年間寝かせて味をなじませる。そこから調合タンクに移し、ブレンドをして度数を25度に下げる。原酒は四季の気温によっても微妙に味が変わってくるが、それをブレンドでブレを最小限に調整している。この作業が非常に大切で、毎日飲むものだから、味が変わらないように細心の注意を払わなければならない。また、焼酎は瓶の中でも熟成するので、お客さんの手元に届く約3ヶ月先まで見越して出荷しているという。

甘みと旨みのある味に感激


では、その味をみてみよう。「のんのこ」は麦麹で白麹である。甘み、香ばしさがありつつスッキリしている。「のんのこ黒」は米麹の黒麹。「のんのこ」に比べれば、甘みも深くて味に幅がある。「麦古陶里(むぎことり)」は薄濁りの微減圧、素濾過の麦焼酎。これは香ばしくて旨い! コクがあるのにスッキリとして飲みやすい。せっかくなので、清酒も飲ませてもらった。「棚田の唄」は、有田の山田錦で造った純米吟醸。やや甘めだが、酸があるのでぬる燗でもうまそうだ。

減圧蒸留の麦焼酎というと、甲類の焼酎と同じじゃないか?という偏見が私の中にあったのだが、「のんのこ」は、みごとにそれを打ち砕いてくれた。なにしろ甘味があって旨いのである。

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次に、併設の焼き物テーマパーク「ポーセリンパーク」へと移動。ここにはドイツのツヴィンガー宮殿を模して建てられたお城のような建物があり、中は有田焼のギャラリーになっている。江戸から明治の有田焼が集められており、1873年にウィーン万博に出展された巨大な壺が圧巻だ。

そのほか有田焼の工房もあり、伝統的に登り窯も再現。絵付けや陶芸など、焼き物体験もできるとあって、この日は修学旅行の学生さんたちでにぎわっていた。

二カ所あるレストランで食事を楽しんだ後は、おみやげ屋「蔵」へ。宗政酒造自慢の清酒・焼酎のほか、蔵限定商品やここでしか手に入らない希少な商品を取りそろえている。試飲もセルフサービスでし放題なので、酒好きにはこたえられない。

さっそく私もいろいろと試飲させてもらった。まず麦と芋のブレンド「恋寅」は、すごく甘い!蒸留酒なのに、この甘さはどこからくるのか不思議だ。米焼酎を3年以上寝かせた「日乃宵 星乃夜」は、まろやかでほんのりとした甘みがある。バーボン樽貯蔵した米麦ブレンドの「鵲(かささぎ)」にいたっては、独特の甘みに加えてバニラ香が良い味を出している。限定品の麦焼酎「彩々」は常圧蒸留で香ばしくガツンとくる味。黒麹の「黒泉山」は、コクと甘みが深い。全体的に、原料本来の「甘み」を残した造りが素晴らしい。

出口のあたりに、販売員のおじさんがまた試飲をすすめていて、黒山の人だかりになっていた。「かなりの酒好き」だと言う私に、おじさんは、冷凍庫からキンキンに冷やした原酒「有田」43度を取り出し、「水を飲みながらストレートでやってください」と。う〜ん、こいつはアルコールの甘さと麦由来の甘みが相まって絶品! いかなる飲んべえをもうならせる味である。これで2200円。「安いですね〜」と言ったら、「お姉さんきれいだから2000円でいいよ!」とたたみかけてくるところはさすが。思わず買いそうになってしまった。

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最後に醸造部長の大古場博文さんにお話を伺った。大古場さんは入社25年というから、創業当時のメンバーである。はじめはまったくの素人で、鹿児島の杜氏の下について修行した。当時は「技術は盗むもの」と言われ、細かいことは教えてもらえず苦労したが、今は「数値と勘のどちらも使って造る」という域にまで達している。

自ら「佐賀の農家の長男坊です」と言い、農家の苦労を人一倍知っている大古場さん。だから、生産者の方々と話をして、「米一粒、麦一粒が焼酎の一滴になる」と原料をことさら大切にする。また、造りの人間も、店頭に出たり、試飲会に行ったりして、お客さんの声をダイレクトに聞くことが大事だと言う。

「毎回、造り方を洗練させていっているので、味は創業当時より格段に良くなっています。安い商品だからといって、手抜きは一切しません。酒質に関しては妥協しないで、1000円の商品ならば1200円、1300円のクオリティを追究しています。今後はもっと味わいや旨みの際だつ商品を造りたい。農家さんが汗水垂らして作った原料を大切にして、米の旨み、麦の旨みを出したものを造りたいですね」

大古場さんは、「のんのこは、飲んで辛い、甘いではなく、『旨か』と言われたい」と言う。私もつべこべ言わず、旨いものは旨いでいいじゃないか、と思うほうなので、とても共感できる。ゴールのない「旨か酒」を目指し、「のんのこ」は今日も味わいを深めているのである。

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宗政酒造株式会社
佐賀県西松浦郡有田町戸矢乙340番地28
創業昭和60年 年間製造量8000石
TEL0955-41-0020
http://www.nonnoko.com/



1清酒の麹造り
2清酒の仕込み室
3かけ麦を蒸すドラム
4一次仕込みのタンク。櫂入れは人の手で
5二次仕込みのタンクを見る
6蒸留器
7ポーセリンパーク
8有田焼の展示室
9登り窯
10絵付け体験
11試飲コーナーにて
12大古場さんとともに



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