酔っぱライタードットコム - 造り手訪問/日高見


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仙台から仙石線で約1時間。石巻は薄く雪が降ったあとがあり、海風が冷たく寒かった。ここに全国的に知られる銘酒がある。平孝酒造の日高見だ。

東京でお会いした社長の平井孝浩さんは、イケメンだし垢抜けているし、とても東北の田舎出身とは思えなかった。お酒もキレイで透明感があり、洗練された印象。どうやってこんな都会的なお酒を造っているのか?という興味で、石巻までやってきたのである。

その夜は、平井社長と「海山彦べえ」というお店へ。日高見といえば、「魚でやるなら日高見だっちゃ」というキャッチフレーズで知られる。ならば蔵でのテイスティングより、魚をつまみにゆるゆるいただくのが本道だ。

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一杯目は、冷蔵で1年寝かした「純米山田錦」をぬる燗で。お〜、まろやかで柔らかい!旨味はありつつ軽やかだ。肴は鳴瀬産の生牡蠣。大きすぎずギュッと身が締まっていて味が濃い。酒は香りも味も強すぎずキレがあり、たしかに繊細な魚介類との相性は抜群だ。

次は山田錦の母である「山田穂」と、父である「短稈渡船」の米違い純米吟醸をいただく。この酒は、企画からじつに8年かけて実現したという苦心作。なにせ種籾を探すところから始まって、東北では育たないため兵庫県にかけ合い、少量の種籾を育てて増やし、ようやく酒にしたという涙ぐましい努力の結晶なのである。

飲んでみると、「山田穂」はスッキリしていてきれい。「短稈渡船」はやわらかくコクがある。スペックは同じなのに、全然キャラクターが違う酒に仕上がっていて面白い。私は透明感のある「山田穂」が気に入った。

吟醸の「雄町」もいただいた。雄町は純米酒にしてコクと旨味をたっぷり出して…という酒が多い中、日高見ではあえてアル添している。雄町の純米酒だと、キレが良くないからというのがその理由だ。たしかにコクとキレのバランスが良く、スイスイ飲める雄町であった。

最後は本醸造の「辛口」。東京の試飲会ではお目にかかれない、地元のレギュラー酒だ。これが燗で良し、冷やで良し。味がありつつ、きれいでキレがあり、激ウマ!この酒が晩酌用なんて、石巻の人たちは幸せだ。

日高見ブランドの立ち上げから20年

翌日は朝から蔵見学。とくに力を入れているのは原料処理で、全国に数台しかない洗米機は、ジェット水流で洗う方式。限定吸水後は脱水機で水を切る。釜は和釜と同じ蒸気が出るスーパーヒーターを搭載したOH式である。

麹は手造り。自然放冷のあと、引き込んでハクヨーの製麹機で保温。盛りは箱で行う。仕込みタンクはすべて2トン以下。大吟醸の仕込み室は別にあり、600キロ〜900キロの小仕込みをしている。

搾りはヤブタではなく、よけいな匂いがつきにくいシリコン製の搾り機を採用。さらに「搾った後も酒造りは続く」と考え、火入れ、貯蔵、出荷まで気を抜かない。吟醸以上は、一回火入れで瓶貯蔵。そのほかはサーマルタンクで冷蔵貯蔵している。

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こうしてみると、どの酒もほぼすべて吟醸造りといっても過言ではない。なるほど、レギュラー酒があれだけ旨かった理由が納得できた。

そもそも日高見は20年前に立ち上げた新ブランドで、もとは新関という酒を売っていた。平井社長は東京で就職し、家業を注ぐ気はなかったのだが、24歳の頃、父から「もう廃業する」と言われて一念発起。「俺がこの会社を建て直してやる!」と故郷へ戻ってきた。

しかし当時の酒業界は割引き値引きのサービス合戦。売れない酒をトラックに満載してぐるぐる町内を回り、売れるまで帰れないという情けない日々が続いた。会社は建て直すどころかどんどん傾いていき、明日をも知れない状態へと追い込まれていった。

帰郷して3年ほどたった頃、「こんなことをやっていたらダメだ。新関はしがらみがあるから、違うブランドを立ち上げなければ」と思うようになる。ちょうどその頃、国で級別廃止が決まったので、「新ブランドでこの流れに乗っかろう」と考え、日高見ブランドでひとつずつ特定名称酒を造っていった。

ちなみに日高見というのは、日本書紀にも載っている古代都市の名前。太陽に恵まれた肥沃な土地と記されており、北上川の河口あたりにあったらしい。それが平泉の文化にもつながっているという。

平成2年に産声を上げた日高見だったが、ちょうど地元紙で「日高見の時代」という連載が始まったり、NHKで日高見の国を題材にした番組が放映されたりと、日高見にとってラッキーな神風が吹く。新関についていた割引条件を出さなくてもよくなり、会社が建て直ったのは、日高見のデビューから10年後のことだった。

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最悪の状態から酒業界に入った平井社長は、自分の仕事は酒造りではないと言い切る。「オーナーの仕事は酒をちゃんと売ること。そして、蔵人たちに良い環境をつくってあげることだと思う」と言う。

「宮城県代表の野球のチームにたとえれば、日高見は何番打者なんだろう?とよく考えます。4番や5番はもう大御所がいるので、1番か3番が打てるといいなと。そして日本代表チームのレギュラーメンバーには、はたしてなれるだろうかと。それには酒に物語とオリジナリティがなければいけない。また、ちょっとした遊び心で飲み手を楽しませる工夫も必要です」

江戸前寿司に合う酒として「超辛口純米酒」を造ったときは、東京の寿司という寿司を食べまくり、「酒よりも寿司を熱く語る蔵元」と自負するほどになった。この酒を有名寿司店で飲める酒に育てたい、というのが目下の目標。日高見デビューから20年。これからが第二幕の開幕だ。


外観-.jpg株式会社平孝酒造
創業文久元年
宮城県石巻市清水町1-5-3
TEL0225-22-0161






1海山彦べえ 宮城県石巻市立石町1-2-5 TEL0225-93-2603
2鳴瀬産の生牡蠣
3刺身盛り合わせ
4石巻焼きそば
5湯気を上げる甑
6麹米を自然放冷
7麹の引き込み
8麹の種付け
9仕込み
10大吟醸の仕込み室
11日高見のお酒
12平井孝浩社長とともに

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