升本
東京都港区虎ノ門1-8-16
Tel03-3591-1606
虎ノ門の1番出口を出ると、東京タワーをバックに「升本」の看板が光っている。「ああ、今日も疲れた。ちょっと飲んで帰るか」と、のれんをくぐると、1階も2階もお客さんで大混雑。ほとんどが、この近くのオフィスに勤めるサラリーマンで、スーツ姿の男性ばかりだ。なんと女性客はこの広い店内に私一人だけ、という状況に、一瞬クラクラする。
木のテーブル席は8人掛けの追い込み。相席は当たり前だ。椅子は木の丸椅子。これは高校の理科室の椅子だという。この椅子が硬くて座りにくく、1時間もすると尻が痛くなる。自然と1時間程度の滞在時間となり、店側にとっては客の回転が速くなって大繁盛、というわけである。
とりあえず、生ビールのジョッキと「鰯フライ」450円をたのむ。フライは添えられたタルタルソースか、テーブル備え付けの中濃ソースをつけていただく。そしてビールをグビリ。旨い!
じつはこの店、向かいの酒屋「升本」の姉妹店だ。そのため、酒の品揃えと安さには定評がある。全国各地から選りすぐりの日本酒が26種類、ほかに季節限定で7〜8種類のお酒が低価格で楽しめるのだ。例えば、最近人気の「獺祭 純米吟醸」も、オヤジ好みの「菊姫 山廃純米」も、1合580円というから嬉しい。
お酒をたのむと、一升瓶をテーブルまで持ってきてくれ、下に皿を敷いたコップにあふれるほど注いでくれるのも、素晴らしいサービスだ。とくに酒飲みは、酒のラベルまで確認したいもの。これなら「瓶を持ってきて」と、わざわざたのむ煩わしさはない。
つまみはすべて手作りで、全国の食材や名産品を取りそろえている。新潟栃尾名物の「栃尾揚げ」は、巨大な油揚げを焼いて、ネギと鰹節でいただく。サクサクして旨味があり最高だ。「ホヤの塩辛」は、新鮮でないとおいしくないのだが、「升本」のものは絶品。まったく臭みはなく甘い。
人気ナンバーワンは、「タコおでん」650円だ。おでんのつゆは、だしのきいた薄味。そのつゆでじっくりと煮たタコは柔らかく、どんな酒にも合うし、〆の一品にしてもいい。とにかく旨いので、一度食べたらやみつきになること請け合いだ。
毎日大混雑の店を切り盛りするのは、たいへんな気苦労・重労働だと思われるが、店員さんたちはいつ行ってもキビキビしていて気持ちが良い。しかし、話しかけてもゆっくり相手をしてくれる余裕はない。一人で行っても、旨いつまみと酒を堪能するだけにとどめよう。
「お酒は酒屋直送なので、管理と品揃えには自信があります。つまみも毎日築地に行って、季節感のある酒に合うメニューを考えています」と店長は胸を張る。このスタイルを貫いて58年。突っ込む隙のないほど、完璧に練り上げられた酒飲みのための空間は、「さすが」の一言である。