新楽寿司
東京都港区新橋3-21-2
TEL 03-3431-3662
銀座には、高級な寿司屋が軒を連ねていて、ミシュランの三ツ星に選ばれる店もあるほどだが、お隣の新橋にも、がんばっている寿司屋はちゃんとある。もちろん高級店ではないが、それだけに敷居は高くなくてくつろげる。お財布にも優しいから、お小遣いの少ないオトーサンでも気軽に通うことができる。
烏森口の薄暗い路地に建つ雑居ビルの2階にその店はあった。階段を上ってのれんをくぐると、8席ほどのカウンターの中に大将が2人。「あ、いらっしゃい」と、やや気の抜けたような声がかかる。「ヘイ!ィラッシャイ!!」などという気合いの入った挨拶はさらさらないのだ。おかげでこちらの肩の力もふわりと抜ける。
今日は特別にカニを予約しておいた。出てきたのは大きな毛ガニが一パイ。これで4000円ナリ。銀座ではあり得ないお値段は、さすが新橋ならではだ。
「ロシア産じゃないよ、日本産だよ。食べればすぐわかるよ」
と大将。太い脚にはプリプリの身がぎっしりと詰まっていて旨い。
「生きたまま仕入れて、うちで茹でたから旨いだろ」
沸騰した湯に入れて10数分でちょうどよく茹で上がるという。
ここの熱燗は菊正宗。たっぷりのカニ味噌をつまみに飲む酒は格別だ。味噌を食べ終わったら甲羅に燗酒を入れて甲羅酒にする。日本酒にカニのだしがしみ出して激ウマだ。甲羅の中身が完全になくなり、ツルツルになるまで酒を飲んだ。ここまできれいに食べてもらえれば、カニも本望だろう。
次はつまみだ。ミル貝をさっとあぶって、スダチを搾っていただく。ふわりと磯の香りが広がる。飲むのは冷酒の酔仙。岩手の吟醸酒だ。私の好物のしめサバは、絶妙のしめ具合。サバもほどよく脂が乗っている。
おすすめはここの穴子。ふわふわの身に、タレが甘辛くて、酒がすすむ。下に敷かれているキュウリ、そして本ワサビとともにいただく。ううむ、旨い!
この店のいいところは、注文を催促しないことだ。食べるものも、飲み物も、こちらが声をかけるまで、「次は何にしましょうか?」なんて野暮なことは言わない。しかも、「にぎり一人前」やら「おまかせ」などというお仕着せのメニューもない。自分のペースで飲んで食べられる貴重な寿司屋だ。
店そのものは昭和23年からあったというが、大将の代になったのが昭和49年。以来30年以上、このスタイルでやってきた。現在のビルに移ってきたのは6年前だが、先代からずっと新橋の町でのれんを守ってきたという。
ゆるゆると飲みながらネタケースの中を見ると、イカ、タコ、マグロが並んでいる。では、イカをにぎってもらおう。ワサビを抜き、塩を乗せてもらう。醤油をつけずにそのままパクリ。おお、甘い!イカの甘みが塩によって引き出される感じだ。
お次は小柱の軍艦巻き。小柱がでかい。上に軽く醤油をたらしていただく。貝の旨みがジュワッと口の中に広がる。ああ、シアワセ。
最後はカンピョウとキュウリの巻物。そこに、ワサビを細長く切ったものを一緒に巻き込む。カンピョウの甘みにキュウリの爽やかさが加わり、ワサビがキリッと全体を引き締める。感動的に旨い。
すっかり満足して、寿司と酒で一人2000円。このお値段にも大満足であった。