「ゲーッ!す、酸っぱい!?」
これが、初めてアンデスの地酒「チチャ」を飲んだ感想だった。場所はペルーのクスコ。観光化された表通りからは想像もつかない、裏町のチチェリア(チチャの酒場)である。
薄暗い土間で古ぼけた気のテーブルに陣取っているのは、民族衣装を着たおばさんやおじさん。こっちはスペイン語すらよくわからないというのに、インディへナの言葉、ケチュア語まで飛び交っている。もちろん観光客などいるはずもなく、完全に「場違い」。こっちを見るみんなの目が、はっきり「よそ者め」と言っている。
しかし、せっかく探し当てたチチェリアだ。ともかくチチャとやらを飲んでみたい。だが、運ばれてきたチチャは、なんとビールのピッチャー大の巨大なグラスになみなみと入っていて、薄茶色に濁ったしろもの。ドロドロしていて、プクプクと泡立っている。
さて、こいつをいきなり飲んではいけない。大地の神、パチャママに捧げてからいただこう、と地面にちょいと垂らしたら、見ていた周りの客たちは、「お、インカのマナーを知ってるな」と一目置いてくれたらしい。「サルー(乾杯)!」と声をかけてくれたのだ。
それからは、「どうだ、チチャはうまいか?」「チチャはトウモロコシから造るんだぞ。知ってるか?」「うちの息子の嫁になってクスコに住まないか?」などと、あちこちから声がかかり、すっかりモテモテになってしまった。
私はいろいろな国に酒を飲みに行くのだが、いつもこんなふうに酒飲み同士で意気投合するのが常である。とくにアンデスではよく踊った。人々はフォルクローレの調べにのって、歌い、踊り、そして飲む。
ちなみにクスコのチチャは、発酵が進みすぎて酸っぱくなっていたのだとあとで知った。ボリビアのコチャバンバは、アンデス一のチチャの里と言われている。そこで飲んだチチャは、トロリとして自然の甘みがあり絶品であった。
1 手前がチチャ・フルティジャーダ(イチゴのチチャ)、奥がチチャ・ホラ(トウモロコシのチチャ)。
2 クスコのチチェリアで飲む
3 チチャの原料は芽を出したトウモロコシだ。
4 チチャを造る道具。
5 チチャを運ぶインディヘナの女性
6 ペルーのチチェリアは花を模した赤いビニールが目印
7 プーノで売られていたチチャ・デ・キヌア(キヌアのチチャ)。カルピスっぽかった。
8 チチカカ湖に浮かぶ葦でできたウロス島。足下がふわふわする。
9 ボリビアのオルーロの祭り
10 ボリビアのチチェリアは白い布が目印。
11 チチャ・デ・マンサーナ(リンゴのチチャ)。甘酸っぱくてうまい。
12 チチャ・デ・ウーバ(ブドウのチチャ)はワインになる前のもろみだ。
13 パタゴニアの入り口、チロエ島にあった乳精の蒸留酒リコール・デ・オロ。
甘い食後酒。
詳しくは・・・
「チリ・ペルー・ボリビア酒紀行!」三修社