よつぎや
東京都港区虎ノ門5-2-8
TEL 03-3431-7733
地下鉄神谷町の2番出口を出てすぐ、駅の真上にある蕎麦屋。パイプ椅子にテーブルが並ぶ店内は、「食堂」といったたたずまい。実際、近くの企業の「第二食堂」とも言われていて、昼食時はサラリーマンで大混雑だ。昭和レトロの香り漂う食券がいい味を出している。
日暮れになれば、オヤジたちが仕事で疲れた体を癒す居酒屋になる。壁に貼られたメニューを見ると、蕎麦以外のサイドメニューが充実している。
まずは生ビールを飲みながら揚げそばをつまむ。薄く塩味がついいて、パリパリとした食感がビールによく合う。お次は納豆いなり焼き。油揚げに納豆をつめて焼いたもので、たっぷりのネギを添え、醤油をかけていただく。おお、これも旨い。調子が出てきたところで定番の卵焼きだ。これが甘くなくダシがきいていて酒のつまみにはもってこいである。
ここからは蕎麦焼酎のお湯割りをたのみ、腰を落ち着けて飲むことにしよう。近頃あまり目にしなくなったメザシのなつかしさに、オヤジごころがくすぐられる。カツ丼の具だけを皿に載せたかつ煮は、さすがにダシが旨い。
愛想のいい女将が、テーブルのわきで相手をしてくれる。じつはこの店、創業100年以上の老舗だそうで、明治政府の営業許可証もあるという。「よつぎや」という名前は、近くに「よつぎ亭」という寄席があったからだとか。今はオフィス街になっているこの界隈も、かつては芝居小屋や寄席の建ち並ぶにぎやかな町だったそうだ。
まだまだ飲みたいので、大好きな天ぬきを。天ぷら蕎麦の蕎麦抜きで、たっぷりのつゆに天ぷらがひたっている。ダシをとる鰹節は、固まりで買って、店で削っているので香りがいい。濃すぎず甘すぎず、絶妙のつゆである。
〆はおろしそば。冷たい蕎麦に大根おろしと揚げ玉と鰹節がぶっかけてある。蕎麦は北海道と長野の蕎麦粉をブレンドした、更級系の細打ち。真っ白ではなく少し黒みがかった蕎麦は味があり、量もじゅうぶんだ。
店をあずかるご主人は5代目。息子の6代目も同じ厨房に立つ。この弟が「焼き鳥ふじゑ」の息子と同級生ときいた。世間は狭いものである。
店は9時頃で閉まってしまうので、訪問する場合はお早めに。蕎麦屋に長居は禁物。さて、いい気分になり、おなかもいっぱいになったところで帰ろうか。