酔っぱライタードットコム - 造り手訪問/登美の丘

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JR甲府駅から車で20分。さらに山を登ること5分。サントリー登美の丘ワイナリーは、名前の通り、美しい丘の上にあった。だが、訪ねた日はあいにくの雨。頂上のレストランに着くと、眼下に見渡せるはずのブドウ畑は真っ白な霧の中であった。

「このレストランは標高500メートルの高台にあり、一番高い畑は標高600メートル。晴れていればここから富士山が見えるはずなんですが」

レストランに現れた大川栄一所長は、残念そうにそう言った。がっちりした体格にあご髭をたくわえ、優しそうな笑顔が印象的。大川所長がチョイスしたワインを飲みながらの会食となった。

前菜の生ハムサラダとともに出てきたのは、「登美の丘 白 2006」である。ラベルに「元詰」と書いてあるのは、登美の丘のブドウを100%使用している印だ。品種はシャルドネ。レモンやミカンのような酸味があり、リンゴ酸が乳酸に変わるマロラクティック発酵をしているので、バターやヨーグルトのような香りがある。スッキリした酸味が、生ハムとよく合う。

大川所長は、20年前ドイツに滞在し、4年間ワイン学校に通った経験があるのだとか。「だから僕はドイツワインの影響を受けていて、どちらかというと酸味のあるワインを好む傾向がありますね」

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こちらのレストランのおすすめは、豚にワインの絞りかすを与えた「ワイン豚」ということなので、メインは「生ハムで包んだ甲州ワイン豚のグリルトマトソース」をいただくことに。大川所長が選んだワインは「登美の詩 赤」。品種はメルロとマスカット・べーリーAだ。キャラメルのような甘い香りが、トマトソースと合わさって、絶妙のハーモニー。まろやかなミディアムボディで、豚肉との相性はバッチリだ。 

季節は10月の終わりで、収穫は最終段階。あとは甲州と貴腐の収穫を残すのみだという。ブドウの収穫はとてもデリケートな作業で、一日ずれても良いワインにならないと聞いたことがある。登美の丘でも、データの分析をしつつ、天候を見ながら収穫日を決める。今日のように雨が降ると糖度が下がってしまうので、再び糖度が上がるまで待つことになるという。

気候、土壌、ブドウ、そして人間

登美の丘の総敷地面積はおよそ150ヘクタール。園内は車で移動しなければならないほど広大だ。車に乗ってしばらく山道を登ると、展望台のような場所に出た。垣根式のブドウ畑が広がる先は、甲府盆地。その向こうに、富士山、南アルプス、八ヶ岳が見える……はずであったが、この日は霧で真っ白だった。

「良いワインはよいぶどうから」、といわれる。良いブドウとは、健全で完熟したブドウのことだ。ブドウは病気に弱いので、なによりも乾燥が大切。幸いにも登美の丘は、盆地を囲む山の向こうで雨が降っても、盆地に湿気が来ない場所だという。土壌も砂と礫の混ざった火砕流でできているので、水はけがよい。また、ワイン用のブドウは糖度を上げるため、盛んな光合成が必要だが、登美の丘の日照時間は比較的長い。まさにブドウに愛された丘なのだ。

畑に降りると、大川所長が「食べてみますか」と枝に残っていたブドウを手渡してくれた。カベルネ・ソーヴィニヨン。思ったより小粒だ。食べるとすごく甘くて皮が厚い。

「巨峰の糖度は18度くらいですが、醸造用ブドウの糖度は20度を超えます。だから甘い。また、皮の周辺に醸造に必要な成分が多いので、小粒で皮が厚いのが特徴です」

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畑のブドウの樹は、根と上の部分では、太さが違っていた。根はアメリカ系の品種、上はヨーロッパ系の品種なのだとか。このように台木とブドウのできる接ぎ穂の組合せを変えることによって、ブドウの樹の性質が違ってくる。ブドウの樹は3年たたないと実をつけないので、そこから醸造テストをし、データを取って、樹の性質を見極める。こうして一人前の樹になるのに10年はかかるという。

「ブドウの樹は一本一本性質が違う。ここにある樹は、登美の丘に合う樹を、長い間探してきた結果できたもので、ヨーロッパから持ってきた苗木をただ植えただけではないのです。そこには人間の手が必ず加わっている。ワインは、気候、土壌、ブドウ、そして人間が造るものなのです」

日本の食事に合うワインを目指して


登美の丘は、鉄道参議官であった小山新助が「登美農園」として開設したのが始まりだ。1912年には、ドイツから醸造技師ハインリッヒ・ハムを招き、近代的ワイン造りの指導を受ける。一方、寿屋(現在のサントリー)は1907年に発売した「赤玉ポートワイン」が爆発的に売れたため、原料となるワインを探していた。そこで、1936年に登美農園の経営を引き継ぐことになったのである。

本格ワインの醸造に取り組み始めたのは1950年代のこと。1975年には、日本で初めて貴腐ブドウを収穫し、1986年にはワイナリー最高峰ワイン「登美 赤」が誕生した。なかでも「登美 赤 1997」は、2000年に本場ボルドーの国際コンクール「レ シタデル デユ ヴァン」において、日本で初めて金賞を受賞している。

畑から工場に移動し、製造工程の順を追って見学した。まずブドウの梗をとって破砕し、圧搾したあと、発酵タンクに移す。登美の丘では10キロの発酵タンクを使っている。白ワインは18〜25度で、赤ワインは25〜30度でそれぞれ発酵させ、樽熟成のものは樽に、タンク熟成のものはタンクに移す。

樽熟成は、果実と樽と、樽の焼けた香りがそれぞれ合わさって、複雑な香りが出るのが特徴だ。樽は密閉してない木の容器なので、酸素と色素とタンニンが結合し、ゆっくりとした酸化がおこる。やがてタンニンはオリになって落ちるので、その結果、なめらかな味わいのワインになるのである。登美の丘では、白は半年〜1年、赤は1年〜2年ほど、樽熟成させている。

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工場を見たあと、テイスティングをさせてもらった。初めは白ワインから。「樽発酵甲州 2006」は、マロラクティック発酵をしていないので、リンゴ酸が多く、すだちのような酸味がある。そこに樽発酵由来の樽香が加わり、まろやかな風味。ポン酢を使った鍋料理などに合いそうなワインである。

「登美 白 2006」は、シャルドネ100%。収穫時期が遅いので、糖度は24〜25度にもなる。ライチのような甘い香りにまろやかな酸味が印象的なワインだ。

次は赤ワイン。「登美の丘 赤 2007」は、メルルとカベルネ・ソーヴィニヨンを使用。ベリーの甘い香りはあるが、まだ若いせいか、タンニンがやや荒々しい。山梨県限定販売の「カベルネ・ソーヴィニヨン」(現在は売り切れ)は、若草や落ち葉の香りが特徴的。この土の匂いは、ゴボウをたくさん入れたきりたんぽ鍋などに合いそうだ。

「特別醸造 カベルネ・ソーヴィニヨン メルロ 2001」(完売)は、渋みとコクがあり、これからまだ熟成が楽しみなワインである。「瓶熟品 登美 赤 2002」(ワイナリー内有料テイスティングのみ{期間限定11/30まで})は、熟した甘いベリーの香りにハーブの香りが混ざり、いかにも日本食に合いそうなワインだ。どのワインも洗練されていて、日本の食事を引き立てる味わいである。

「登美の丘のワインは、単独で味わうのではなく、食事に合わせることを想定しています。赤でも、フランス料理のようなソースを使っているものより、鰻や鉄板焼きなどによく合います。私たちは、日本で飲むならこれ、というワインを造っていきたい。目標とするのは『凛としてしなやかなワイン』です」

登美の丘ができてから、今年で100年。100年分の英知が詰まったワインたちに、心から乾杯したい。

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サントリー登美の丘ワイナリー
開設1909年
山梨県甲斐市大垈2786
TEL0551-28-7311
http://suntory.jp/FACTORY/




1自家ブドウ園からのぞむ甲府市街と富士山
2甲州ワイン豚のグリル
3ショップ&テイスティングコーナー
4登美の丘100年史
5自家ブドウ園
6発酵タンク
7樽貯蔵庫
8瓶貯蔵庫
9ワイナリー全景
10テイスティングしたワイン
11登美
12大川栄一所長とともに

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