酔っぱライタードットコム - 酔いどれエッセイ/ギネス

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酒にはそれぞれ思い出があり、ストーリーがある。とはいっても、酔っぱライター的には、小説になるような美しいお話ばかりではない。酔っぱらって怪我をしたり、記憶をなくしたり、死にかけたり。かと思うと、飲む相手を間違えてからまれたり、たかられたり。そんな抱腹絶倒・悲喜こもごものショートエッセイ集。

 

ギネス

 私は今まで大病をしたことはないのだが、会社員の頃、どうしても仕事に行けなくなって一ヶ月休んだことがある。医者によると、原因はストレスと過労による鬱病。この病気は、責任感ゼロでやる気のない奴はまずかからない。会社組織では、そういうダメ社員のしわよせをくう真面目人間ほど、鬱病になりやすいというのだ。さっそく抗鬱剤を飲んで、通院治療することになった。
 しかしダルい。何もする気がおきなくて、一日中ベッドにころがっている。絶望と不安のどん底なのだが、死ぬ気力もない。自殺というのは、かなりのエネルギーがいる作業なのだ。この時の私は、食べる気力すらなかった。料理を作るなんてとんでもない。コンビニで弁当を買ってくることすらおっくう。目の前にごはんがあっても、それを口に入れることすら面倒。こうして何日も食べない日が続いた。まずい、このままでは餓死してしまう。私はヨロヨロとフトンから這い出て、食べ物を買いに行った。
 近所には24時間酒が買えるコンビニがある。どの棚を見ても食欲がわかないので、フラフラとビールの棚へ行くと、ギネスの缶があった。ふと、「かつてイギリスでは妊婦が栄養補給にギネスを飲んでいた」という話を思い出した。よし、これだ!ゴクゴクと飲むと、養分が五臓六腑に染みわたるようだ。なめらかな喉ごしがまたいい。ウマい! これなら飲めるぞ!
 それからものが食えるまでの2週間、ギネスだけで生きのびた私。以来、自分が酒飲みでよかったとしみじみ思っている。
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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