酔っぱライタードットコム - 造り手訪問/西の関

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西の関の蔵元・萱島(かやじま)酒造は、大分県の北東部に丸く突き出た国東(くにさき)半島にある。大分空港からは、車で10分ほどの場所だ。

到着した夜は、蔵近くにある割烹旅館「海喜荘」にて、萱島進社長と萱島徳常務が宴を催してくれた。海が近いので、料理には海産物が並ぶ。メバルの唐揚げは、香ばしくてサクサク。アワビのバター焼きは、コクがあって食べ応えあり。圧巻は旬の城下鰈。薄造りにしたプリプリの身に、地元の旨口醤油をつけていただくと、じわっと甘みが広がる。

飲むのは特別純米生原酒の「樋ノ口生しぼり」だ。アルコール度数が18度近い原酒ということもあり、コクと甘みがあって、とにかく濃い。萱島社長がいつも飲んでいるという「上撰」のお燗もいただいた。こちらは糖と醸造用アルコールを加えた普通酒だ。甘みのある旨口で、後味はスッキリとしている。

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「うちの酒は大分の醤油に合うでしょう? 大分の醤油は濃くてやや甘い。私たちは、関東の醤油は薄く感じてなじめません」と萱島社長が言う。たしかに西の関のお酒は、やや甘みがあってしっかりとした酒質。大分の醤油にぴったりである。

〆は山香牛のすき焼き。西の関は、こうした甘いタレにも負けていない。かといって出しゃばらず、スイスイ飲める良酒なのであった。

吟醸酒の命は麹造り

翌朝は、顧問の丸山新次先生が蔵の中を案内してくれた。丸山先生は元国税庁の鑑定官で、6年前から西の関の造りを指導しているという。

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蔵に入るとすぐ、見たことのある機械を発見。限定吸水のできる、吟醸用の高性能洗米機だ。石川県の手取川さんにあったのと同じ機械で、今年から導入したという。今では大吟醸でも手洗いはせず、この機械で洗っているそうだ。

甑はひとつ750キロのものが5つある。ボイラーの蒸気は濾過して乾燥させ、102度で米を蒸す。ステンレスの甑の周りには木が巻いてあるが、これは保温のため。甑が冷えて、米がベチャベチャにならないための工夫である。

麹米はエアシューターを使わず、布にくるみ、ベルトコンベアーで麹室まで運ぶ。麹室は2つ。純米酒や普通酒は、五段盛り製麹機で麹を造る。吟醸以上はフタ麹と箱麹だ。大吟醸の麹米は、自然放冷したあと室へ引き込み、1時間半枯らしてから種付けをする。

「麹造りはいかに乾かすかが重要です。乾かすのは米の表面だけで、中心に水分があるのが良い麹米です。そうすることで、麹の菌糸は表面ではなく中のほうにハゼ込んでいく。このような麹を造らないと、香りが出ない。うちは香り系の酵母は一切使いませんから、麹造りが命なのです」

次に、仕込み室を見に行った。普通酒は4.7トンの仕込みで、大吟醸は800キロの仕込みである。「普通酒は、香りは少ないけれど味のある酒にするため、中にハゼ込まない麹を造ります。もろみで溶けてもらうためです」

大吟醸は、熊本酵母のタンクが4本、9号酵母のタンクが3本あった。そう、西の関では、大吟醸造りに昔ながらの熊本系酵母を使っているのだ。3日目のもろみの香りをかぐと、硫黄のような香りが混ざっている。これは、酵母が栄養不足になっている香りだ。一方、19日目のもろみは発酵がすすみ、リンゴやバナナのような、良い香りがしていた。

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「今香りを嗅いで、いい香りだと言ったけれど、それは香りが外に出て行ってしまっているわけです。香りは出ていくより、もろみにとけ込ませないと酒が香らない。温かいと香りは揮発するため、大吟醸のもろみは低温にするわけです。もろみ日数は最長54日で、最後はもろみの品温を3度まで落としますよ」

香り系酵母の技術

蔵見学を終えた私は、会議室で丸山先生の講義を聞くこととなった。その内容は、かなり衝撃的なのだが、あえて書いておきたいと思う。

鑑評会で金賞をとるには、香りのある酒のほうがいいのだが、9号酵母で香りを出すのはたいへんな技術がいる。そこで10〜15年前に登場したのが「ヤコマン」という手法である。もろみの香りだけを冷凍機に入れて集め、それを吟醸酒に入れるという方法だ。

これでは、インチキっぽくてちょっと後ろめたい。というわけで、バイオ技術を駆使し、吟醸香の出る酵母を作ることにした。そして、各県が開発に乗り出し、吟醸酵母合戦が繰り広げられたのである。

吟醸香の主成分はカプロン酸エチルという成分なのだが、熊本酵母ではそれが3ppmしか出ないところを、香り系酵母は5ppm以上も出てしまう。最後には、12ppmも出るものすごい酵母も開発された。これでは香りが出すぎるということで、今では香り系酵母と香りが出ない酵母を、混ぜて使用することが主流となっている。

これで何が問題かというと、香り系酵母を使った酒は、カプロン酸エチルの主成分であるカプロン酸が、多く含まれ本来の果実様の美しい香りとはかなり離れてしまう。

もっとも問題なのは、本物の技術の伝承ができなくなっているということである。酵母に頼らない吟醸造りというのは、麹をきっちりと造ることにある。

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じつは、西の関の大吟醸は、熊本酵母で造っているのにカプロン酸エチルが4ppmも出ている。通常、頑張っても3ppmくらいしか出ないはずなのに、である。

「やはり、麹の造り方が違うんですね。それでも金賞を取ることができない。それは、きき酒の方法にもよるのですが、今後はそのあたりを変えていかなければいけませんね」

最後に利き酒をさせてもらった。普通酒の「花印」は日本酒度マイナス3なので、甘口ではあるのだが、後味はあっさりしている。精米歩合60%の「特別純米酒」は、味があって旨味があり、キレもいい。「純米酒」は甘みがあり、ものすごく味に幅のある酒だ。どの酒もそれぞれ個性的だが、ベースには「甘めでしっかり」という、西の関らしさがある。

萱島社長は言う。「吟醸酒は昔ながらの製法を守り抜き、普通酒は日常の食生活に当たり前にある酒でいたい。やっていることはいたって普通なんです。とりたてて気張ることもないし、全量特定名称酒にしようとも思わない。時代に流されず、自然体で、すべての酒質の品質だけは絶対に自信のある商品を提供する。そんな酒屋でありたいですね」

質実剛健、首尾一貫。西の関は、どこにいてもいつでも、安心して飲める酒なのである。


外観*.jpg萱島酒造有限会社
創業 明治6年(1873年) 年間製造量6000石
大分県国東市国東町綱井392-1
TEL0978-72-1181
http://www.nishinoseki.com/





1海喜荘 大分県国東市国東町鶴川452番地 TEL0978-72-0059
2城下鰈のお造り(海喜荘にて)
3自動洗米機
4甑
5蒸し取り
6自然放冷
7麹米の引き込み
8酒母室
9酒母の仕込み
10仕込み室
11吟醸の仕込み室
12麹の種付け
13西の関のお酒
14萱島進社長(左)と丸山新次顧問(右)とともに



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