酔っぱライタードットコム - 造り手訪問/コエドビール


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コエドビールの朝霧重治社長とは、友人を介して「一緒に飲みましょう!」と、ずいぶん前から話だけあったのだが、結局初対面のまま、今回の取材になってしまった。実際に会ってみると、30代後半くらいだろうか? 想像よりずっと若い。名刺のデザインもおしゃれだ。

コエドビールの母体は、朝霧社長のお父様である現会長が興した商社である。日本生活協同組合の青果バイヤーだった会長は、有機農産物を契約栽培して、生協に卸す仕事を川越で始めた。

川越は、関東ローム層の痩せた土地なので、江戸時代の川越藩主柳沢吉保は農民にサツマイモを作らせた。各農家は裏庭にくぬぎなどの広葉樹を植え、落ち葉を堆肥にして痩せた土地を耕したという。今で言う循環農業で、これは現在でも川越で行われている有機農業につながっている。また、連作障害を防ぐため、野菜作りの合間には昔から麦が植えられた。この麦を有効活用できないか? というのが、この地でのビール造りの発端だった。

しかしいろいろ調べると、麦はそのままではビールにできないので、まず麦芽にしなければいけないし、焙煎麦芽もつくらなければいけない。とても小さな会社ひとつでできることではないと判明し、地元の麦はあきらめて、特産品のサツマイモを使ったビールを造ることにした。

江戸の台所として栄えた川越は「小江戸」と呼ばれ、風情ある町並みが残っている。そこで1996年、「小江戸ビール」という名前でビール造りを始めた。サツマイモから造った「サツマイモラガー」は当時たいへん話題になり、私も飲んだ記憶がある。

川越の郊外につくったビアレストランは、行列ができるほど人気となり、おみやげ物としてもよく売れて、小さなビール工房では生産が追いつかなくなった。そこで1997年に現在の三芳工場を建設。工房の10倍の生産ができるようになったのである。

「小江戸」から「COEDO」へ

しかし、しばらくすると地ビールブームは去り、小江戸ビールは迷走を始める。埼玉の特産品であるお茶でお茶ビールを造ったり、発泡酒を造ったり、いろいろなことをしたが、初めだけ話題になってすぐ頭打ちになるのを繰り返していた。「これではダメだ」と考えた朝霧社長は、2006年に商品名を小江戸からCOEDOに変え、本物のクラフトビール造りに邁進することにした。

「もともとうちは良いビールを造っていた。ドイツから来たブラウマイスターの親方を5年間社員として雇い、しっかりと職人の技を伝授してもらったので、今いる7人のビール職人は皆優秀です。おかげで世界的なビールコンテストでゴールドメダルもとっていますし、全日空で機内ビールとして採用されてもいます」

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では、ビール工場の中を見せてもらおう。原料となる麦芽やホップは、商社から買うのではなく、すべて現地と直接取引している。ビールは農産物だと考えるコエドビールは、原料の選定にはことのほか神経を使っているのだ。

原料倉庫には、さまざまな麦芽があった。まずベースとなる普通の麦芽。これは、食べると穀物の甘みがある。少しローストした茶色い麦芽はお煎餅のよう。そして、黒い麦芽は焦げた餅のような味がする。これらをブレンドして、味わいを変えているのだ。ポップコーンのようにはじけた麦芽もあった。これはサワーモルトといって、食べると酸っぱい。コエドビールはケミカルな手法を使わない方針なので、この麦芽をpH調整剤として使用している。

煮沸釜では麦汁を煮ているところだった。50度のお湯に粉砕した麦芽を投入し、70度くらいまで徐々に温度を上げていく。そうすることで、麦芽のアミラーゼがデンプンを糖に変えていくのだ。できたての麦汁を飲ませてもらったが、これがものすごくきれいで雑味のない、おいしい麦汁だった。いろいろなビール工場で飲んだけれど、これだけきれいな麦汁は珍しい。

このあとホップを投入することになるのだが、まだ時間が早いので、ホップの香りだけ嗅ぐことに。ノーブルホップのひとつ、ザーツホップは爽やかなグリーンの香り。ネルソンソーヴィンホップはグレープフルーツのような柑橘系の香りだ。

次は発酵室へ。釜のある仕込み室は汗が出るほどの暑さだったが、発酵室は冷蔵庫の中のようだった。コエドビールはドイツ人から手ほどきを受けたビールなので、下面発酵酵母を低温で発酵させるのを得意とする。だから発酵タンクは、酵母が最も活動しやすい5〜8度に設定してあるのだ。

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ホップを加えて煮沸した麦汁を熱交換機に通し、5度に冷やしてから酵母を加える。あとは3ヶ月ほどじっくりと発酵させるのだ。酵母は種菌をドイツから取り寄せ、自社で培養したものを使用している。

発酵タンクから直接ビールを注いで飲ませてもらった。濾過前の「紅赤」だ。サツマイモを焼いてからペースト状にして加えた、コエドビールの看板商品。きれいな琥珀色の液体に、きめ細やかな泡が乗っている。飲んでみると、フルーティーでちょっと甘みがあり、コクもあってうまい!「紅赤」は個性的なジャパニーズビールとして、世界各国で評価の高いビールと聞いていたが、さすがの旨さである。

「Beer Beautiful」をコンセプトに

そのほかのビールも製品になったものを飲んでみた。「瑠璃」は黄金色のピルスナーで、スッキリとして適度な苦みがあるバランスの良いビールである。「伽羅」はやや赤みがかったビールで、コクがありながらきれいな後味にまとまっていて、ほのかな甘みも感じられる。

「白」はバイツェン。小麦のビールだ。このビールは造り方が難しく、好き嫌いがはっきり出るのだが、この「白」は旨い。甘いフルーツの風味がありつつ、スッキリしていて爽やかだ。最後は「漆黒」。香ばしさとほどよい苦みと甘みが絶妙の黒ビールである。

全体として、味や香りに深みがありコクもあるが、「きれい」で「雑味のない」ビールという印象だった。あのおいしい麦汁からできるビールなのだから、さもありなん、である。朝霧社長は言う。

「地ビール創世記の頃は、おみやげ物でなんとなく造っていたビールもありましたが、日本のクラフトビールは今、世界的にも高い評価を得ています。ビールには、大手ビールメーカーが造るピルスナー系ビールだけではなく、味や香りなど個性を楽しんで飲むクラフトビールの世界もあるのです。この素晴らしさや楽しさを、もっと伝えていきたいですね」

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毎年10月には、「コエドビール祭」を行い、啓蒙活動にも余念がない。2011年は10月10日に行われるので、ぜひコエドビールを飲んでみてほしい。日本のクラフトビールのおいしさに、きっと驚かされるだろう。


エコビール本社*.jpg株式会社協同商事 コエドブルワリー
創業1996年
埼玉県入間郡三芳町上富385-10
TEL049-259-7735
http://www.coedobrewery.com


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