酔っぱライタードットコム - 造り手訪問/天山・七田


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天山酒造は、代表銘柄「天山」より、東京では「七田」のほうが有名ではないだろうか。その蔵元・七田謙介社長とは、いろいろな試飲会で顔を合わせていたが、蔵を訪ねるのは初めてである。

取材前日、七田社長と後藤潤杜氏と一緒に、佐賀市内の「旬の蔵パセリ」という店へ。佐賀の地酒と旨いつまみがそろっているという。タイラギの刺身やクツゾコの煮付けなど、有明海の珍味をつまみに、飲むのは「七田
純米吟醸」だ。米の旨味はあるものの、飲んだ後、サッと消えてなくなるくらいキレがいい。

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「うちの仕込み水は、天山の中腹から湧く硬水なので、酒はキリッとした男酒になるのです」と七田社長。ちなみに天山とは、有明海と玄界灘を分ける分水嶺で、天山酒造の蔵から臨める雄大な山である。

次に飲んだ「純天山」は夏を越してちょうど1年くらい経っているとか。たしかに熟成感があり、しっかりとした酒質だが、けして重たくはない。そうこうするうちに、ギョロッケなるものが出てきた。魚肉ハムのフライで、佐賀の名物である。「七田 七割五分」をお燗にしていただく。おお、これはウマい! キレと旨味のバランスが素晴らしく良く、ついつい飲み過ぎてしまいそうだ。

後藤杜氏は、天山酒造で肥前杜氏に師事して8年、杜氏になって8造り目だという。燗酒を口に運びながら、「酒造りは奥が深いです。相手が自然と微生物ですからね」と控えめに語るのであった。

文化財の蔵にオシャレなイベントスペース

天山酒造は1800石を7人で造っている。朝7時20分から、社長以下ビシッと並んでミーティングが始まった。仕事の分担と作業スケジュールの確認なのだが、他の蔵ではあまり見かけない光景だ。

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この日は1トン仕込みのタンク10本を据え付けた、新しい蔵が完成したため、神事が執り行われた。これからここで純米や純吟の仕込みをすることになるのだ。今後は、700キロのタンクは大吟醸、3トンは普通酒や本醸造と使い分け、さらにきめ細かい温度管理をすることで、酒質を上げていこうというのである。

蔵は、明治〜大正〜昭和の建物が並んで建っており、文化庁の有形文化財に指定されている。蔵の中は、フネを改造したバーカウンターがあったり、昔の容器をディスプレイしたスペースや、仕込み水の汲み場があったりと、とてもオシャレでセンスがいい。

蔵の脇を流れる祇園川は、数万匹の蛍が飛び交う群生地として有名で、蛍の季節には蔵でイベントを行うという。「蔵コンサートは年に数回開いていますよ。食事とお酒と音楽を、五感で感じて楽しんでもらうんです」と七田社長。この空間でのコンサート、きっと素晴らしいに違いない。

赤いビロード張りのレトロな椅子が並ぶ部屋が、テイスティングルームになっており、そこであらためて昨日飲まなかったお酒を利き酒させてもらった。

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「しぼりたて」はこの季節しか飲めない19%の生原酒。フレッシュ&フルーティーですごく飲みやすい。「岩の蔵 純米」は、一回火入れの瓶貯蔵。原酒だが、コクがありながら重たくないところがいい。

「純米原酒 天山地酒」は、酸もあり濃い酒でガツンと来る。ニューヨークに10年以上前から輸出されていて、「ロックで飲んでも薄まらない」「肉料理にも負けない」と評判は上々だという。

「岩の蔵 純米吟醸」は、ほどよい上品な吟醸香にやわらかな味わいである。「純米大吟醸 螢川」は、9号酵母で醸した純米大吟醸なので、派手さはなく、おっとりした上品さは食中酒としていける。ぬる燗でもおいしいだろう。「大吟醸 飛天山」は、酸がしっかりあり、ガッチリした大吟醸。およそ金賞狙いの華やかな大吟醸とは対照的で、天山らしい酒である。

七田社長は、一般の大学卒業後、農大の短大へ再入学し、その後愛媛の梅錦で2年間酒造りの修行をした。蔵に帰ってからは、杜氏制度が崩壊していく中、社員杜氏の育成を進め、現在は輸出にも力を注いでいる。

「もっともっと、酒の質を上げて、安定させたいですね。でも、いいものを造っていれば売れるという考えではダメでしょう。日本酒の飲み方や、買える店・飲める店の情報を提供して、業界全体で消費を拡大しなければいけないと思います」

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でも、酒業界というのは、なかなかまとまらないのでは?という私の問いに、「いえ、佐賀は若手の蔵元が多いので、話がまとまりやすいんです。この前も福岡に佐賀のお酒を楽しめるBARを作りましたしね。これから佐賀は面白いと思いますよ」

たしかに、佐賀の酒の会では「これは」と思う酒にいくつか出会った。その中にあって、ひときわ異彩を放ちながらしっかりと独自の酒を醸す天山酒造。今後の注目株であることは確かである。


外観*.jpg天山酒造株式会社
創業1861年 年間製造量1800石
佐賀県小城市小城町岩蔵1520
TEL 0952-73-3141
http://www.tenzan.co.jp/





1旬の蔵パセリ 佐賀県佐賀市唐人1-2-22 TEL0952-22-3151
2クツゾコの煮付け
3蔵から天山を臨む
4イベントスペースのディスプレイ
5仕込み水
6ショップにも古い木箱が再利用されている
71トン仕込みのタンクが10本並ぶ新蔵
8新蔵の神事
9甑
10麹室
11製麹機に麹を引き込む
12仕込みの櫂入れ
13天山酒造のお酒
14七田謙介社長とともに

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