千賀
東京都港区新橋3-15-1 第一大興ビル2F
新橋裏通りの露地にある雑居ビル。急な階段を上がったその2階に「千賀」はある。
カウンター9席のみの狭い店は、夜ごと疲れを癒されたいオヤジでいっぱいだ。
店を一人で切り盛りするママは、とびきりの美人ではないけれど、可愛らしくてホッと和める優しさがある。
お酒は一杯500円からとリーズナブルだし、時30種類以上あるママの手作り料理も
ボリュームがあっておいしいので、たとえ懐が寂しいときでも、ふらりと立ち寄れる店なのだ。
飲むのは新橋界隈ではここだけでしか飲めない「利八」。辛さや刺激がなく、ソフトで飲みやすい芋焼酎である。
こいつをゆるゆる飲りながら食べるのは、ママのお母さんが毎日仕込んでいるしめ鯖。これが絶妙の味加減で、「ここのしめ鯖食べたらほかのが食べられないよ!」
というほどの人気だ。
そして珍しいシシャモの南蛮漬け。焼いたりフライにするのが一般的なシシャモを、
あえて南蛮漬けにしている。甘くなくサッパリしているので、酒がすすむ。
名物のオムレツも忘れてはいけない。オヤジの郷愁をそそるのは、コンビーフが入っていること。コンビーフの塩気に負けないくらい胡椒がきかせてあって、中はフワフワ。旨い!
〆は粕汁。具だくさんなので、近頃食が細くなった団塊の世代には、この一品だけでも大満足かもしれない。
いい具合にほろ酔いで帰るときは、急な階段に気をつけよう。でも大丈夫。ママがちゃんと下まで見送ってくれる。
大通りに出る直前、案内してくれたオヤジが言った。
「後ろを振り返ってごらん」
すると豆粒ほどになったママが、まだ人混みに紛れて手を振ってるではないか。
「ほらね。俺にはいつもこうやって見送ってくれるんだよ」
いやいや、これはみんなにやっていることだと思うんだけどな~。
こうして今日もまた千賀はオヤジ心をわしづかみにしているのである。