やきとりふじゑ
東京都港区新橋1-10-3
TEL 03-3571-2238
新橋のゴチャゴチャした場所とは反対側の、銀座に近い場所にひっそりとたたずむ焼鳥屋。赤ちょうちんに迎えられ、ガラガラっと引き戸を開けると、小さなカウンターに2つのテーブル席。奥に座敷の小上がりがある。二階には15人ほど入れる座敷があり、宴会客も受け入れてくれる。
備長炭の焼き台に一人で向かうのは無口な大将。大将の奥さんとその息子が接客や洗い物を手伝う。BGMはなし。
焼き鳥が焼けるまで、タコブツとマグロの刺身をたのみ、ビールでまず一杯。本当はマグロの中落ちがおいしいのだが、今日はなくなっていた。しかし、刺身もうまい。中トロで脂がのっている。
焼き鳥は1本160円~200円。ナンコツ、ハツ、皮、レバー、つくね、三つ葉巻きなど。それにウズラの卵を落とした大根おろしがついてくる。タレの焼き鳥をこれにつけて食べるとうまい。
三つ葉巻きは、鶏肉で三つ葉を巻いて焼いたもの。塩味でワサビがのっている。三つ葉の香りがいい。ハツは安い店で食べると匂いが気になることがあるが、ここのは新鮮でクセがなく、ふっくら大きくてうまい。皮には普通の皮と手羽先の皮の二種類がある。手羽先の皮は4羽で1本しかとれない貴重なもの。普通の皮よりコクがある。ちなみに使っているのは宮崎の鶏だとのことである。
焼酎は芋焼酎の「田苑」、日本酒は「菊正宗」だ。日本酒のお燗をたのむと、酒燗器ではなく、目の前でお燗をつけてくれる。この風情が心地よい。
こうして飲んでいる間にも、パラパラとお客さんが来るのだが、大将は「もう終わりですよ」と断っている。時計を見ると、7時45分。しかし焼き鳥のネタケースの中はガラガラでほとんど残っていない。私が来たのが6時40分頃だったが、もう手羽先は終わっていた。売り切れ御免の早じまいだ。
しいたけが旨いというのでたのんでみる。串に刺さずに網の上で焼いて、あとから串に刺す。しっかり焼けて、外は香ばしいのに、中はジューシー。その焼き加減はまさに芸術だ。
「炭は水分を出しながら燃えるので、炭火は素材に水分を与えるんです。ガスだと水分を奪ってしまう。全然違いますよ」
と大将。焼き台の横には、40年間継ぎ足してきたタレが壺に入っている。このタレが、甘からず辛からず、サッパリとしていて絶品だ。タレを褒めたら、「今日は特別」と言って、「越の寒梅」を出してくれた。つまみはこちらも裏メニューのアンキモ。冷やでキューッとやる。うまい!
「ここは大正5年の建物で、もう建て直せないし、もうすぐ店やめるんだよ」
と大将がポツリ。
「そんなこと言わないでくださいよ。跡継ぎの息子さんがいるじゃないですか」
「あいつはダメだ。串も打てないし、焼きもできない」
職人肌の大将の目には、息子がふがいなくうつるのだろう。しかし、なんとか息子を仕込んで、店を続けてほしいものである。