酔っぱライタードットコム - 造り手訪問/田酒

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青森駅に着くと、一面の雪景色だった。西田司社長が一席もうけてくれたのは、「すぎのこ」という居酒屋。杜氏の細川良浩さん、業務部の笹森潔さんも加わって、酒盛りが始まった。

飲んだのは、「田酒」の生原酒。1〜2月の限定商品で、1合瓶のみ。原酒なのに飲みやすく、アルコールを感じさせない。大吟醸の「百四拾」は、「華想い」という青森県産の酒造好適米と、青森県の酵母で醸している。フルーティーで華やかな香りだ。山田錦の「田酒」は、上品でさすがの旨さ。山田穂の「田酒」は、山田錦に比べれば地味だが、しっかりとした味だ。

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テーブルの上には、マグロの骨の部分がドーンと乗っていて、骨についた中落ちを、スプーンでそぎおとして食べるという趣向。豪快だ。また、郷土料理の「貝焼き」も出てきた。ホタテ貝にダシをかけ、味噌を溶いて卵とじにする。熱々をいただくと、たまらない旨さ。これに合わせて山廃をお燗にしてもらった。なんともいえず、ホッとする味だ。

店を出ると、「まだ早いのでもう一軒行きましょう」と西田社長。西田社長とは、東京の酒イベントなどでお会いする機会はあったが、一緒に飲んだことはなかった。それで、てっきりお酒が飲めない人だと思いこんでいたのだが、「何を言っているんですか。私は大酒飲みですよ!」と言われたので、一安心。

二軒目は、「磯々亭」という居酒屋だった。西田社長と二人でカウンターに陣取り、「喜久泉」の生を飲む。ちなみに「喜久泉」は西田酒造店にもとからある銘柄。35年前に純米酒を造ったとき、「田酒」と名付けて売り出した。だから、「田酒」は純米酒で、「喜久泉」がアル添の酒と区別することも出来る。東京では「喜久泉」を飲む機会はあまりないので知らなかったが、めちゃくちゃウマい。

つまみはハタハタの卵、「ぶりこ」。大きな数の子みたいで、噛むとプチプチしている。日本酒によく合う珍味で酒がすすむ。西田社長も「お米は食べるものじゃなく、飲むものですよ」と言いながら、ぐいぐい飲んでいる。こうして青森の夜は、楽しく盛り上がったのだった。

日本一きれいな蔵

翌朝蔵へ行くと、甑から湯気が上がっていた。一見して大きな甑は、一度に2トンの米を蒸せる特注品だ。2500石を16人の製造部隊が担っているということで、蔵の中には人がいっぱい。きっとほとんど機械化していないのだろう。

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麹米はエアシューターを使わず、麹室までクレーンでつり上げる。麹室は2部屋あり、精米歩合35%と40%のものは麹蓋を使う。麹室には切り返し機しかなく、温度管理だけで麹を手造りしていた。

大吟醸は、700〜800キロのタンク9本に仕込まれる。出品酒は毎年1月に仕込むのだが、今年は全国、東北、青森県で金賞をとるという、三冠を達成している。

大吟醸以外は、6000〜7000リッターの開放タンクで仕込む。もろみ日数は23日くらい。搾るのはヤブタで、3台あるフネはほとんど使っていないそうだ。

「ヒネた酒が嫌い」という西田社長は、火入れと貯蔵にことのほか気を配っている。瓶貯蔵は火入れにパストライザーを使い、冷蔵庫で貯蔵。タンク貯蔵はプレートヒーターで急冷して、サーマルタンクか7度の冷房室で貯蔵している。

精米所も持っていて、高精白のもののみ自家精米している。この規模の酒蔵にしてはやたら米が多いのは、純米比率が85%を超えているからだという。アル添が少ないから、どうしても米の量が多くなるのだ。また、平均精米歩合が53%と高精白なのも、米が多い理由である。

分析室や酵母の培養室も整っていて、分析器の中には車1台買えるものもあるという。また、蔵人のうち6人は泊まり込みなので、各自の個室と食堂がついた宿泊所も完備していた。

蔵の中を見て驚いたのは、とにかくきれいなこと。築20年だというのに、隅々までピカピカだ。あちこちにゴタゴタとものが置いてあったりせず、整理整頓も徹底している。「とにかく掃除は徹底的にやっています。おそらく、うちの蔵よりきれいなところはないでしょう」と西田社長は胸を張った。

旨味はあっても、雑味のない酒に

酒質については、西田社長が口を出すのは3割くらいで、あとは細川杜氏と話し合って決めているという。しかし、絶対に譲れない点もある。その一つが、旨味のある酒を造りたいということだ。

「濃醇辛口はあってもいいですが、淡麗辛口は大嫌いですね。とくに活性炭を使った酒はダメです。うちの酒は、炭濾過をしていません。だから、搾ったときからやや黄色く色づいています。それが酒本来の色なのです」

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よく「活性炭で化粧をする」と言うが、西田社長に言わせると、「あれは化粧ではなく薬だ」となる。「米の磨きが悪かったり、ヒネた酒はもう病気だと思います。それを治すための炭濾過だから、薬。化粧というのは、箱やラベル、瓶の形状にこそ使うべき言葉」だという。

西田社長は、「黄色い酒はゴツくてヒネた酒」という先入観も変えたいと言う。「うちの酒は、火入れや貯蔵にこだわって、絶対ヒネないようにしています。目指すのはきれいな熟成。色がついていても、きれいな酒というのは存在するのです」

「地酒は、地元の米と地元の水で、地元の蔵人が造るもの」という思いから、地元の蔵人さんが作った「華吹雪」(青森県の酒造好適米)で、今年特別な「田酒」を造った。発売35周年を記念した、65%精白の復刻酒だ。来年1月の発売だが、6倍の予約が来て、発売前から売り切れ状態だという。

「もっと造れば売れるのに、もったいないですね」と言うと、「麹室の大きさや仕込みタンクの本数、そして季節雇用の蔵人さんの都合などを考えると、今の製造量でいっぱいなのです。これ以上造るとすると、蔵を全面的に建て替えるしかないですね」

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それでも「田酒」の人気にあぐらをかかず、いろいろ仕掛けている。「氷清」という19度の「田酒」と小さなグラスをセットにして、夏に飲むオンザロックの日本酒を提案。また、冬は一合瓶に山廃を詰めて「びん燗」と名付け、お燗酒を広めようともくろんでいる。日本酒の消費拡大のため、蔵元と酒販店が集まった「和醸和楽」という団体の会長にもなっている。

「売れているときこそ、攻めの営業をしなければと思っています。田酒に関しては、グラスや飲み方などを含めて、ライフスタイル全般の提案をしていきたい。また、日本酒を飲んだことのない人に、日本酒を知ってもらうための活動も続けていきたいですね」

この日はちょうど搾りがあったので、できたての「田酒」を飲ませてもらった。うっすらと黄色いが、スッキリきれいでお米の旨味がある酒だ。この色と味は、西田社長の心意気を映している。一時のブームではなく、息長く愛される酒には、それなりの理由があるものである。

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株式会社西田酒造店
創業明治11年(1877年) 年間製造量2500石
青森県青森市油川字大浜46
TEL017-788-0007
http://www.densyu.co.jp




1貝焼き(すぎのこにて)
2すぎのこ 青森県青森市橋本1-5-4 TEL017-774-0558
3ぶりこ(磯々亭にて)
4磯々亭 青森県青森市新町2-7-18 TEL017-776-2241
5甑
6麹の引き込み
7麹蓋
8掛け米の放冷
9酒母室
10仕込み室
11吟醸の仕込み室
12酵母の培養室
13田酒のお酒
14西田司社長とともに

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